焼き物を科学する

  • 別ページ「土の造り方」の「土石類の成分の理解」で説明しましたがもっと詳しく科学的に理解を深めて頂きます。
  • 別のページ「土石原料の化学分析値」(pdf)は、私が色んな資料を基に集めました土石原料の化学分析値の一部ですが、この表で見ると先ほどの「土石類の成分の理解」でいう三成分の分け方を化学記号で示します。
    ◇珪石分:SiO2
    ◇アルミナ成分:Al2O3 & Fe2O3
    ◇アルカリ成分:CaO & MgO & K2O & Na2O
    他の成分はここでは無視して頂きます。
  • 「土石原料の化学分析値」(pdf)では、左端に原料名、上項目に成分化学式、右端は合計で成分の数値は百分率(パーセント)として考えて下さい。アルミナ成分でAl2O3(酸化アルミニウム)の多く含まれている順に上から並べ表示しています。
  • もっと詳しく化学分析するには「ゼーゲル分析」という概念で行うともっと理解できるのですが、ここでは難しくなりがちですので、そこの部分は個人の判断で勉強して下さい。
    「ゼーゲル分析」で造られた「ゼーゲル錐」(ゼーゲルコーン)は窯の中で立て温度に達すると倒れるという温度計代わりに使うもので、原料をベストな配合で調合された三角形の錐です。
  • 「土石原料の化学分析値」の表で示すようにアルミナ成分でAl2O3が多く含まれている順に並べるのを見ると上から土、長石、土灰という風に並んでいくと思います。例外はあるのですが大凡その様にアルミナ分が多くなると土成分に、少なくなると釉薬成分になるということを理解してもらえるかと思います。また別の見方をするとアルミナ分が多く含まれると溶けにくくなり、程よく含まれると良く溶け、少量しか含まれていないと溶けなくなるというのが解ると思います。少量しか入っていない灰類は単独では溶けないとういのは、釉薬をかけないで薪の燃料で窯焚きをし薪の灰が掛かって景色をなす焼き締め陶器(備前焼)は土成分と灰成分が接合すると溶け、灰が掛かりすぎて土成分と融合出来ない部分なると溶融しなくなるのが解ってきます。
  • 別ページ「土の造り方」で採取する土石類、粘土質や砂岩質など単一成分でないにしても大まかにその成分がどの位置のどの原料に似ているのかを理解するのが最も良い方法と思いますが、採取した土石類を化学分析に出せば良いのですが時間と費用が掛かりますので、自分で試験焼きしてみて見当を付けるのが最良と思います。
  • 別ページ「上薬の作り方」でも上記のやり方で見当を付け採取した土石類に溶かす役目のアルカリ成分「灰類」を混合し釉薬を作りこれもまた試し焼をしながら独自の上薬を作る方法だと思います。
    単独かつ単一の成分で存在する「土石原料の化学分析値」で示される原料が存在していなかった「桃山陶」時代以前では科学的なことは解らずとも、身近な土石類で土を作り上薬を作って出来るだけ白い焼き物をと思い試験と工夫を積み重ねたのだと思います。

土石類と鉄の関係

土石類と鉄の関係

  • 左の画像は佐賀県有田町の山中で取れる白川山土の原石を知り合いの穴窯に無釉の焼〆で焼くつもりで入れて焼いたのですが、たまたま廃材の松の木を割った薪に鉄の釘が付いていて、薪の灰と共にその上に乗っかり焼き上がってしまった物です。
  • ここで何が起きたかといいますと、白川山土の上に薪の灰が降りかかりガラス質の釉薬と化し表面を覆います。緑色の部分で松の木の灰は鉄分が多く色が付いてしまい少量の鉄分で緑になります。そこに鉄の釘が、熱した釘が氷の表面から深みに溶けて沈むが如く白川山土の岩石の中に沈み込んでいます。
  • これがどういう原因か推測しますと、元々有田では釉薬の原料として白川山土が使われており単体でも溶けるのですがそれに加えて薪の灰が掛かりより溶けている状態でした。そこに釘の表面の酸化鉄が「土石類の成分の理解」でいう三成分の中のアルミナ成分の「溶かすのを助ける」役割で釘が沈んでしまうくらいものすごく溶かしたのだと考えられます。溶けた岩石に灰(アルカリ成分)が融合しさらに溶け、アルミナ成分の鉄が追い打ちをかけ良く溶けた状態です。
  • 釘(鉄)自体、岩石や灰に接した部分以外の鉄分は1,200度ぐらいの熱でやや形が崩れるぐらいになっています。これらの画像は先の説明の三成分の役割が間近に見える状態だと思います。それぞれ単独では溶けず三成分がうまく触れ合うと溶け合うのが実証されています。

土石原料の化学分析値を利用して作る

  • 「土石原料の化学分析値」を基にしてどのように土や釉薬を作るのかを考えたいと思います。
  • 土を作るにはどうしたらよいのでしょうか。カオリンや木節粘土、蛙目粘土などの粘土は単独で充分焼き物になるのですが、でももう少し焼き締まった粘土にしたい。磁器土みたいに焼き締めたいなど要望が生まれたとします。
    その焼締まりが欲しいという目標を天草陶石に定めます。「土石原料の化学分析値」天草陶石とカオリン系の粘土を比べるとカオリン系にはAl2O3(アルミナ成分)が倍以上入っています。逆に言うと珪石分とアルカリ分が半分以下と言うことになり、その足りない成分の珪石分とアルカリ成分を補ってやれば良いと言うことになります。
    ではどのような原料で補ってやるかというと長石類が良いかと思いますが、そこは粘土ですので粘性を損なうと造れなくなりますので天然風化された粘性のある長石を選びたい物です。
  • 釉薬を作るにはどうしたらよいのでしょうか。釉薬の種類は無数にあり自身が作りたい物を目標に上げます。「志野釉」「黄瀬戸釉」「飴釉」「藁白釉」
    大体、長石類が基礎になり何を混ぜるかによってそれぞれの釉薬が出来るというのが定説になっています。「志野釉」などはガラス化していても白く濁り透明性がなく表面も凹凸が多いとなると珪石分が多く含まれアルミナ分が少ない長石を選ぶか、もしくは足らない成分を補い目標の釉薬に近づけるよう調合で調整します。
    SiO2「珪石分」を補う場合、土石から補う場合と植物から補う場合はそれぞれ性質が違い焼き上がりでも違いが出てきますので、そこは目標の釉薬に合わせた使い方補い方を工夫されると良いでしょう。
  • 「土の造り方」の説明で私が採取した砂岩質の土石を例にしますと、その砂岩の土石を「土石原料の化学分析値」のどの原料に近いかを大まかに定め、足らない成分を土石や灰類の原料で補い、粘土や釉薬に仕立てていきます。
    その砂岩で粘土を作る場合には粘性が足らないのでカオリン系を少し造れる程度まで補います。釉薬を作る場合には土灰を混ぜて透明釉にしたり、硅酸分の多い灰類と土灰を混ぜわら灰釉にしたりします。また鉄分を入れることで、多く入れると天目釉、少なく入れると飴釉になります。
  • ある程度の試行錯誤でテストを重ねなくてはならないのですが、「土の造り方」の三成分の性質や「土石原料の化学分析値」で解る原料の性質など理解していませんと、試験焼で良い結果が生まれなかったときにその後どうすれば良いのかが解らなくなります。
    科学というのは物の道理を理解する言葉だったり、道理を伝える言葉だったりしますので「焼き物」や「陶芸」も科学で理解するというのはとても重要だと思います。

参考資料

山瀬窯 陶片

帆柱窯 陶片

古唐津の陶片

  • 身近な所の古唐津古窯「山瀬窯」と「帆柱窯」の土成分が比較されている資料があります。
    佐賀県窯業技術センターがまとめ発行されている「唐津焼き用の高アルミナ質山瀬陶土の特性」(PDF)の中で山瀬窯と帆柱窯の陶土の分析値や窯跡からの出土した陶片の生地の科学分析値などが掲載されています。
  • これで確認すると山瀬窯はカオリン系の土を使い、帆柱窯は長石系の土を使っているというのが解りますし、それに伴う上薬もそれに付随すると考えられます。
    実際に見ると山瀬窯の生地は焼き締まりが足りずきめの細かさに比べると帆柱窯の生地は砂毛が荒いように見えていても良く焼き締まり、古美術界でも帆柱窯の方がランクが上とされています。
    この古窯は古唐津の中でも古くより創業され帰化した朝鮮陶工によるものと伝えられていますが、山瀬窯の方は古唐津古窯群の中でも土の違いで異種とされていますが、帆柱窯の方は他の古窯と同様に砂毛のある土を使っています。土や上薬の精製方法もその当時の日本には無かった方法で身近な土石類を粉砕し水簸し、粘土や釉薬などに仕立てたのだと思います。