上薬の作り方

上薬の原料

上薬の作り方

土は程よく溶けて焼き締まり吸水性がない、でも表面がざらついたり汚れたりするので良く溶けてガラス化した表面にするために良く溶ける上薬でコーティングするというのが陶磁器の理念と思います。

glaze

  • 土の作り方も別ページ「土の造り方」で説明をしました「土石類の成分を理解する」の成分、「珪石分」「アルミナ分」「アルカリ分」を理解して頂くと土造りの延長線に釉薬作りがあるのだと解ってくと思います。
  • ただ、土にするにはアルカリ分やアルミナ分は必要だけれどもあまり多くは入って欲しくない。釉薬はアルミナ分は必要だけども沢山は要らないし、アルカリ分はそこそこは欲しいとなってきます。
  • 「土の造り方」で作った土に土灰や木灰を三割程度入れるとガラス化した釉薬になります。土灰や木灰は燃やした草木の成分にもよりますがアルカリ成分が大半を占めます。上薬にするには土の中に足りないアルカリ成分を補うために土灰を入れるという考え方です。
  • 土は程よく溶けて焼き締まり吸水性がない、でも表面がざらついたり汚れたりするので良く溶けてガラス化した表面にするために良く溶ける上薬でコーティングするというのが陶磁器の理念と思います。

◇成分の配合別に見る釉薬

  • これは基本的なことですが上記三成分はそれぞれ単独では溶けません。二成分でも溶けません。三成分が程よく混ざらないと溶けないようになっています。
  • 程よく混ざったというのがどういった概念なのかを定めないと話が進みませんので、一般に釉薬の原料として「長石」と言う石があります。長石とは全世界にいろいろありますが、ここではそれを細かく言わず大まかに「長石」と考えてそれに定め話を進めます。
  • 土作りで説明したきらきら光る粒子もこの部類として考えて下さい。これが溶けて焼き締まる土になるわけですが、これに若干アルミナ成分が入ったのが水簸で水中に浮遊するのだったり、陶石という部類になります。
  • その長石は高温で焼くとガラス化しますが全くの透明というわけではなく白く濁ったものになります。それにアルカリ成分を加えると良く溶けるようになり、アルミナ成分を若干加えると透明感が出てきます。ここでアルミナ成分の仲間の酸化鉄に置き換えると飴釉とか天目釉になります。白く濁った釉薬は「志野釉」「萩釉」で有名で、アルカリ分とアルミナ分が増して透明感の出てくると「織部の透明釉」「絵唐津の透明釉」とかになり、酸化鉄が要ると「古瀬戸釉」「黒唐津」、酸化銅になると「青織部釉」「辰砂釉」になります。また、アルカリ成分を加える目的で稲科の植物(珪石分が多く含まれる)を一緒に燃やして灰を作り加えた釉薬が「古唐津の斑釉」「古萩の白釉」などが有ります。
  • 釉薬とは異なるのですが薪窯などで行う「焼き〆陶」などはどのような仕組みなのかを言いますと、高温の窯の中で無釉の生地の上に燃料の薪が燃え灰となって降りかかり土の成分と灰の成分アルカリ成分とが溶け合い、表面だけがガラス化し薄く釉薬をかけたのと同じようになります。また、土の中の酸化鉄(アルミナ成分)が反応し赤く発色したり、アルミナ成分が入っていることにより良く溶けたり、また逆に土灰(アルカリ成分)が極端に多くなると溶けずに黒く残ったり飽和状態になりマットみたいになるのが「備前」や「信楽・丹波」などの「焼き〆陶」に見られます。
  • 珪石分は主成分ですので入っているのは当然と考え、後はアルカリ成分やアルミナ成分が如何に入るかで色んな変化が生じてきますので、その三成分の役割を良く理解し、その推測の上で原料を配合し目的に合った釉薬を作り出すと言うのが課題となります。
  • 例として私の身近な唐津焼きの「朝鮮唐津」という二種類の釉薬をかけた焼き物があります。「飴釉」と「斑釉」とをかけ分けるのですが、それぞれ掛け分け重なった所が高温で焼くと流れて景色をなすというのが「朝鮮唐津」です。そのシステムを見ると「飴釉」には酸化鉄(アルミナ成分)が多く含まれ黒い釉薬で、「斑釉」は「わら灰釉」といってアルミナ成分は少ない配合になっている白く失透した釉薬です。二種の重ね合わさった所は別物の釉薬に変化し、良く溶けるどころか流動するまでに溶けて白と黒とが混ざり合い絶妙な変化で魅了しています。
    全国に「なまこ釉」とかいう名で通っている流し釉はその釉薬の同類です。
  • 採取した土石類は白い石だけで存在せず左画(赤く見えるのは鉄分が含まれます)のように白い部分と赤い部分とに分かれたりしています。これを粉砕する前に赤く色が付いた部分を削り落とし白い部分だけを取るようにします。削り落とされた赤い部分は後で飴釉のような鉄分を多く含んだ釉薬や青唐津釉などに使われ、白い部分の所は斑釉や絵唐津釉などに使われます。また、鉄分というのは磁力を帯びて引き合うのか土石の中に層として存在し、それが固まっていますのでそれを鬼板鉄といって絵唐津などの絵を描く絵の具として使われています。

◇配合する釉薬

  • 今日、安定した陶磁器原料が供給されています。昔は身近な身の回りの土石類を採取し、工夫と経験で焼き物を焼いていた時代と異なって来ています。デザイン性が優れ綺麗で完璧な陶磁器の生産を目指してのことですが、また反面一六〇〇年前後の桃山や江戸初期に盛んに作られた焼き物を見直す風潮もあり、それは「わびさび」としてあがめられ魅了してきています。それは身近な土石類を工夫して焼いたエネルギーが「味」として評価されています。
  • 過去も現代も共通して言えることは、工夫し目指して作っていることです。たまたま焼けたではなく、このように焼こう、あのように焼きたいと願い修練を重ねています。それには先の説明の三成分の理解が要となります。

有田の釉石 白川山土

白川山土の原石
白川山土の原石をそのまま焼成した塊

 ちなみに私が在住している佐賀県の有田町では古来1600年ごろより釉石(長石)として使われ上薬の原料として採掘されてきた「白川山土」という鉱石があります。上画像がそれで、左側は白川山土を採掘したそのままの原石で右側はその原石をそのままの状態で薪窯の穴窯で焼いたものです。表面は焚き物の灰が降り掛かり溶けていますが石自体も宇佐飴のように溶けて流動しています。此は単体でも溶けてガラス化質になると言うことです。
 左側の原石の方は角張って堅いように見受けられます。同じ熱水作用を受けた陶石に比べると耐火度が低く溶けやすいと判断できます。また、他の長石に比べると光沢がなく白くなっているのは熱水作用のせいと考えられます。
 現在もごく一部ですが釉薬として使われています。現に私の井戸茶碗を焼成する梅花皮釉の原料は白川山土で若干の土灰を混ぜ低火度で焼いています。その原理としては白川山土には他の長石に比べアルミナ分が多く含まれ粘性があります。その粘性があるが為に収縮率が高くなり、茶碗に釉薬を掛ける際に若干ひび割れが生じます。その状態で窯の高温の中で縮んで溶けてそれが広がらないところで火を止めます。それが冷却され梅花皮の状態での残るという原理です。
 古伊万里(有田焼)で有名な柿右衛門で行われた「濁手(にごしで)」という技法も泉山陶石や天草陶石に白川山土などを混ぜよりガラス化するのを目指したものと考えられます。白川山土を混ぜることにより耐火度が低くなりガラス化し透光性が増し上薬も出来るだけ薄く施し宝石のような存在に仕上げる為と考えられます。しかしそれが故に高温すぎると変形したり歪んだりするリスクも増え生産効率が悪くなります。
 1600年代の陶工は足下の石を土にしたり釉薬にしたりして工夫を重ね今日に至っています。

最後に「土の造り方」「上薬の作り方」の説明が皆様に少しでもお役に立てればと願っています。


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唐臼

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私の実家ではこのような人力の唐臼で土を作っていましたので、子供の頃よく踏まされていました。今は機械化して電動のスタンパーを使っていますが昔はのんびりしていたのでしょう。

https://youtu.be/udhiVCPZ6-g
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