Picture of 鶴田 純久の章 お話
鶴田 純久の章 お話

藤田美術館
高さ:6.3cm
口径:12.5cm
高台外径:3.5cm
同高さ:1.0cm

青磁の茶碗というものは、その昔、ずいぶん好んで用いられましたのに、今に伝わる遺品は、意外に少ないです。おそらく江戸以降、茶席にほとんど用いられなくなった関係で、紛失したり、こわれたりして、少なくなったのでしょう。それだけに、この茶碗は希少価値も高いわけですが、それにもまして、つくり、釉調の美しさは、天下一品といってもさしつかえないでしょう。
胎土は、竜泉窯でも極上というべき、細緻な、堅い土を用いています。畳つきの露胎部では、かなり濃い茶色に焦げています。速い、きれいな轆轤(ろくろ)で、柔らかいカーブの碗体が挽かれ、かなり薄作りであることも珍しいです。高台の削りも薄く、鋭く、ていねいな仕上げは、官窯の青磁かと見まごうばかりです。碗の外側には、細い蓮弁のしのぎが三十本彫られており、その狂いのない鋭い彫りには、目を見張らざれます。もちろん、フリー・ハンドで彫ったものです。
この上に釉がかけられるわけですが、これがまた美しいです。青磁の完成は、宋代といわれます。
それは、かねて一重にしかかけなかった青磁釉を、二重、三重にかけたことにポイントがあります。釉層が厚くなったために、釉色は濃く、深みを増し、光沢も豊かになっだからです。この茶碗の釉にも、その完成期の、高揚した格調が見られます。茶碗の外側、半ばよりやや上に、一段、釉色の濃い部分がありますが、これは重ねがけにした釉の溜まりです。何かむら雲のような、一つの景色になっています。
釉は畳つき近くで消えますが、たぶん、ずぶ掛けにしたあと、この部分だけ軽く削ったのでしょう。だから、高台内にも一面に釉が及び、中央の高まった、いわゆる兜巾の景色を、いっそう美しくしています。釉色は俗に粉青と呼ばれる、みごとな淡青で、後代のものによくある、緑系の色とはわけが違います。まさに、玉を摩そうとするかのようです。外側のしのぎをおおって、濃淡に分かれた調子も、内面の、一点の曇りもない一色の調子も、ともどもにみごとです。
口縁部には、純度の高い金で覆輪がめぐらされていますが、この碗は伏せ焼きではなく、したがって、口縁もざらついていないはずで、ほんとうは、その必要はなかったと思われます。
にもかかわらず、覆輪をつけたということは、箱の貼り紙にもあるように、これを「青磁天目」、つまり天目茶碗の一つと考えましたので、天目の定めにならってしたのでしょう。一度はずして、口つくりを見たいものです。
これが天目であることは、明初期の、みごとな堆朱のと、黒漆のと、二つも天目台が添っていることでも知られましょう。まるい内箱の蓋表には、了々斎の筆で「満月」の銘がしるされています。いかにも満月のごとく、豊かに整った名碗です。
(佐藤雅彦)

付属物
天目台 堆朱 菊牡丹文輪花形
天目台箱 桐白木書付了々斎筆
伝来 井上世外
所載 大正名器鑑
寸法 高さ:6.3cm 口径:12.4cm 高台径:3.4cm 同高さ:0.8cm 重さ:210g
所蔵者 大阪藤田美術館

 青磁天目という名称は、学術上では用いられません。天目形の青磁茶碗は存在しないからです。にもかかわらずこれを天目と称したのは、高台が、あたかも建蓋のそれのように小さくしまって、天目形に近いと目されたからでしょう。と同時に、満月という銘が示すとおり、この世にもゆたかな円満具足の姿は、茶碗の王者、即ち天目であるべきと見て、この聖称を贈ったのでしょう。
 窯は浙江の竜泉窯。造られた時期は、青磁焼成の技術が完成した北宋の末近くでしょう。純白の磁土を速い轆轤でひいて薄い碗体をつくり、外側に箆をいれて、三十本の蓮弁しのぎをつけます。これほどに狂いのない鋭い彫りは、膨大な量の竜泉青磁の中でも、恐らく比類を見ないでしょう。そして全面に粉青色の青磁釉をたっぷりとかけ、高台の裾だけ削りを加えて土見としたものです。釉は二重、三重にかけられたため、色合い濃く深みを増しよく溜まったところは正に玉を想わせる景色となっています。

名物。中国茶碗、砧青磁。
秋天の満月を見るように青磁の色が透き通って見えるので爽快さを覚えます。
もとの所持者不明、箱は了々斎、1925年(大正一四)に井上家入札で一万八千六百円でありました。
現在は藤田美術館所蔵。
(『大正名器鑑』)マンジュー牡丹餅ともいいます。
焼成の際上に重ねた器の底辺のために円く焼け抜けた跡で、一種の景色とみなされます。

満月 まんげつ

青磁茶碗。
名物。一名 「青磁天目」と称されるのは、高台が建蓋のように小さく締まって天目形に近いことや、その銘のごとく世にも豊かな円満具足の姿は茶碗の工者天目であるべきとみてのもので、学術上の名称ではない。
窯は龍泉窯で、純白の磁七を速い健輔で挽いて薄い碗体をつくり、外側に縦に箆を入れ蓮弁の鎬を付ける。
全面に粉青色の青磁釉をたっぷりかけ、高台の裾だけ削りを加え土見とした。
釉は色合い深く、玉を想わせる景色である。
【付属物】天目台1堆朱、菊牡丹文輪花形 同箱-桐白木、書付了々斎宗左筆
【伝来】井上世外
【寸法】高さ6.3 口径12.4 高台径3.4 同高さ0.8 重さ210
【所蔵】藤田美術館

前に戻る
Facebook
Twitter
Email