唐津焼伝統技法 叩き造り
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1.道具の用意
・叩き造りには「シュレイ」と「トキヤー」という道具が必要となります。
シュレイとは、平たい板状で作り表面上に凹凸が出来るように格子紋などの刻みを入れます。
トキヤーとは、木の丸太をつかみやすいように彫刻し、表面の年輪を浮き出させるよう刻みを入れます。
後の説明にもありますが器物を造る際、外側にシュレイ、内側にトキヤーを両手で持って土を挟み込むように叩きます。
2.底板作り
・ロクロの天板もしくはガメ板(ロクロの天板に乗せる板)の上に満遍なく土灰を振り掛けます。
これは器物の制作完成後、天板もしくはガメ板と生土の底板が容易に離れるようにするためです。
・器物の底の径を定め、それに合わせて轆轤を回し筆で水をはり円を描きます。
これは水を塗ったところだけ天板と生土が接着土離れしないようにしておくためです。
・土の塊を天板に乗せシュレイで出来るだけ薄くなるように叩き延ばします。延ばしたところで先ほどの底の径より外側で土を切り整えておきます。
3.底板よりより紐土を輪積み
・先ほど底の径の部分に円を描き、そこからより紐土で側壁となる胴の部分をロクロの回転を利用し立ち上げていきます。
より紐土とは、均一な太さの棒状の土を先ほどの円の円周よりやや長めに造っておきます。
より紐土の太さは器物の大きさに比例すると共に細ければ細いほど器物の厚みが薄くなり、全体には軽く仕上がります。叩き造りの重要性がここにあると言って過言では無いようです。
・ここの立ち上がり部分は重要で底板と胴の部分が離れないように良く密着させ締めておくことです。
4.胴の部分をより紐土で積み上げ
・ロクロの回転を利用し、より紐土で一段ずつ積み上げるのですが、さきに積み上げた土の真上に積み上げるのでは無くやや内側に重ねるように積み上げます。
ここでは、下の土と上の土とが重なり合いそれを延ばすことで密着度が高まりより丈夫な側壁となります。
・両手で積み上げた土を摘まみ延ばすようにしますが、均一な厚みと締まり具合で叩き特有の軽さが生まれます。
時間は掛かりますがここを丹念にしないと薄くて丈夫な叩きの作品が生まれません。
・また延ばした後の土の高い低くいをロクロの回転を利用し弓糸で切って整えておかないと後の作業でひずみが生まれます。
5.目的の高さまで積み上げ
・先ほどの作業を繰り返し、目的とした器物の大きさよりやや高めまで積み上げていきます。
ここで重要な事はいかに均一な厚みで積み上げるかが、作品の仕上がりに影響し上等か否かにつながります。
・積み上げた筒状の生土を少し時間をおいて乾かします。全体が乾くように最上部だけが乾いて堅くならいように工夫します。ドライヤーなど器具を使うことも大切です。
※ここでの注意、あまり高熱を加えると土の性質上ワレが生じることがあります。
※ここの状態より下記の説明での叩き締めが行われず水引きしたのを「板起こし」と言います。特に積み上げた筒状の内側にトキヤーを持った腕が入らない場合に行うことが多いです。
6.積み上げた筒状を叩き締める
・やや乾燥し堅くなった土管を最上部、口の所から底の立ち上がりの所までロクロの回転を利用し、リズミカルに同じ力加減で同じ所は叩かないように叩き締めます。
・上から下まで休みを入れずに一気に叩くのがコツですが、最上部の口周りが叩くことで真円の形が極端に崩れるようであれば、前の説明での乾き具合が足らないのでもう少し乾燥させ堅くします。
ここは熟練がいりますが、古唐津の叩きの作品に見られるように内側に「青海波状紋」を言われるように内側のトキヤー(丸太)の年輪が一定のリズムで刻まれるように叩かなければなりません。
※装飾的な叩きの紋様などこの時点で叩いて入れておきます。
7.最終形状に向かって成形する
・ここでの説明では矢筈口を持った水指の説明です。
・叩き終えた土管の最上部の口縁部を整えておきます。出来る限り真円に近いように整えます。
・まず矢筈口の作り出します。水指の方の部分に段差を付けますが、ロクロを回転させヘラ等で内側に押し込みます。一気に押し込むので無く土の硬さ加減を加味し行うことが大切です。
・矢筈口の鐔の所(蓋が乗るところ)を成形します。ここで初めて土に水を付けますが、最上部の口縁部の所だけ筆等で水を含ませて塗り、なめし革などで挟み指先や爪などを使って鐔を形取り成形します。 ※ここだけ土に水を付け、他は付けないというのも叩き造りの最大の要素です。
・矢筈口の形になるようヘラなどで押し当て形を作っていきますが、鐔の部分が真円で無くなると先ほどの説明のように水を付け鐔の部分を整えながら成形していきます。
※水指の中でもここの部分が一番目に付き重要なところでもありますのできっちりと造っていきましょう。
・ヘラ等を使い胴の部分の成形していきますが、ただ単に外側よりヘラで押し当てるのでは無く、内側より指等で押し添えてヘラ彫をするとより一層凹凸感が増し力が入ったヘラ目になります。
※焼き〆ならいざ知らず、上薬を掛け焼成するとこの凹凸感や角の鋭さなどが薄れ目立たなくなる恐れがありますので、刻みを入れるときは極端に入れた方が良いようです。
8.成形の仕上げ
・竹べら等で、「2.の説明で」土灰と水を付けた境目をヘラで切り込み、底板の余った外側の部分を取り除きます。
・底板より立ち上がりの部分をヘラ等で削り仕上げておきます。
・両肩に耳をつけます。この耳は、昔は紐をかけて縛るという意味合いがあったようですが、今日では装飾の意味合いで付けています。
・ある程度乾燥し変形しないように堅くなったのを確認し、逆さまにして底の部分に畳付の三つ足を付けます。形状は様々にありますが表面を滑らかにするのがコツと言えます。
※なぜ三つ足かといいますと、水指は茶席において塗り物の上に位置するときが有り、三つ足にすることで接地面が少なくなりその塗り面に傷を付けないようにし、さらにがたつきを無くすという気遣いから来ています。
9.銘を入れて出来上がり
・最後に作者の銘を入れて完成です。
10.叩き技法の覚え書き
・叩きで造る目的とは、一般の水引き轆轤成形で造る器物とは違い薄くて軽く丈夫に仕上げるのが最大の要素です。
・土の作り方選び方でも、古唐津の時代より行われている土の作り方は、基礎となる土は一般の水引き轆轤成形の土に例えば沼地みたいな有機物が多く入った粘土状の蓄積物を混入しているようです。
※その訳、その蓄積物は粘性が強く成形するときに薄く仕上げるのに最適、または有機物が焼成の時に塩基成分が発散し土を焼き締める要因になります。古唐津の陶片で確認すると、断面を見るかぎり二種類の土の層が見えること。温度が上がって焼成された器物を見ると煎餅みたいに所々にブク(塩基成分が発するガスによる)が生じていることなどです。
・その様なことをヒントに自分なりの土作りが可能になってきます。
・波状文や外側の板目などはなぜそのままに残すのかと言いますと、凹凸があることにより表面積が広くなり上薬との接地面も広くなり、上薬の塩基成分の発散も重なりより焼き締まった母体となり丈夫なやきものになります。
こんな技術も先人の知恵と工夫の賜物と思います。