土の造り方
「土の造り方」と一言で片付けてしますと簡単のように思えますが、人の歴史に伴った焼き物の歴史から見ると土の造り方こそ最も重要な要因のようです。
clay
- 土器から始まりニューセラミックまで、火のそばで土をこねたことから始まり科学という工夫と知識を用い鉱物に匹敵するほどの強度を持ったものを作り出しています。
- 世界各地の古来より伝わる焼き物は土の成分により様々な形態に変化し、人の生活の中で脈々と伝えられています。世界貿易が発達するとその工夫と知識が他の地域にも伝染し一つの文化として生まれて来ています。ではどのような理念を持ち発展したかを考えますと、基本は「漏らない物」「丈夫な物」のようです。
- 冒頭に「土の造り方」と題しましたが、本来の焼き物の見解からすると見方を変えなくてはなりません。土とか上薬とかを区別して全く別物にしてしまっている傾向があります。焼き物を科学的にご存じの方は別ですが、ただ単に土を買い、釉薬を買いしていらっしゃる方は特に「全く別物」という考えに陥りやすいのではないでしょうか。
- 焼き物とはどういった物なのか、焼くと言うことはどういう意味があるのかを理解しなければなりません。土石の成分の中にどういった物が入っているのか、それを高温で焼くとどういう風に変化するのかを理解すると土の造り方、釉薬の造り方など解ってきますし、ましてや焼き物の歴史や発展の仕方など理解できますしこれから作り出そうとする作品にも影響がでてきます。
- 焼き物の歴史の中でどのような発展を遂げたのかを見ると理解できるかと思いますが、傾向としては土は「よく焼き締まり」全体イメージは「綺麗さ」(白さ)を目指して来たようです。
- 本来は科学的に考えなくてはならないのですがそうなると話が難しくなりがちですので、ここでは簡単な表現で説明したいと思います。(それでも難しくなるかと思いますがご了承下さい。)
1.土石類の成分の理解
- 土石類(焼き物に使えそうな物)には様々な物がありますが、その土石の中の成分には共通する成分が存在します。
珪石分:主成分で地球の地殻で六割ほど存在し、高温でこれをいかに溶かすかが焼き物の理念です。
アルカリ成分:化学記号で言うと四種類以上存在しますが、高温でこの仲間が主成分(珪石分)を溶かす役割持っています。
アルミナ成分:この仲間は色んな役割が有り、常温では粘りを出す役割や高温では溶かすのを助ける補助的な役割をしたり、骨格的な役割をしたりします。酸化金属類、例えば酸化鉄などはこの仲間で着色の役割もします。
※他にもいろいろな成分が存在すると思いますが、微量もしくは焼き物には関係ないかで今のところ無視して頂きます。 - 上記の三成分が土石の中にそれぞれ成分の含まれる分量で、地域や習慣・歴史などで呼び名が付いています。 例えば「カオリン」「長石」「珪石」「土灰」「わら灰」(灰類も土石の中に入れておきます)
◇カオリン:土に使われることが多い。上記三成分の中の珪石分とアルミナ分が多くアルカリ分は微量。特にアルミナ分は他の土石に比べて非常に多く含まれています。(地域によっての通称カオリンでは成分が異なります)
◇長石:釉薬に使われることが多い。上記三成分がうまく溶けるように配合されています。というか、この長石を溶かすために現代の陶磁器業界の焼成温度が設定されているようです。
◇珪石:ほとんどが珪石分が含まれます。
◇土灰:アルカリ成分が多く含まれ、中には珪石分が少量含まれています。
◇わら灰:ほとんどが珪石分です。 - 前にも述べた土と上薬の区別と申しましたが、カオリンと長石の区別と言い変えておきます。
カオリンと長石の区別は無く、地域で取れる土石にはカオリンと長石の中間的なものも有ります。
例えば私が住む佐賀県有田町には世界的にも有名な泉山陶石があり、昔は「カオリン」と呼ばれていましたがその成分は長石に近いものです。それでも泉山陶石は一山全部同じ成分とはいかないもので場所によってはアルミナ分が多かったり少なかったりします。
- 土器の時代より人々は土をこね、器を作り火にかけて焼き物を作ってきましたが、それは珪石分が高温で焼成されることで成分が代わり凝固する事が要因のようです。わざわざ土器の時代に戻らなくても良いのですが身近な土を焼くと言うことはその土の成分を理解しなくてはならないと言うことです。
- 例えば私が行っている土石類の見分け方を説明します。
◇色を見る:普通身近に有るものは遠くから見ると茶系かグレー系だと思います。これは上記の三成分アルミナ分特に茶は第二酸化鉄で、グレーは第一酸化鉄が含まれています。出来る限り白に近い物を選びます。
◇拡大鏡で見る:倍率20倍くらいの拡大鏡で見ると大体の成分が見えてきます。微小な粒子が見えさらにきらきら光る砂の粒子が見えると最良です。このきらきら光る粒子が最も重要でこれはガラス化している粒子「長石」や「珪石」の部類ですので土が高温で焼き締まるためには必要な要素です。
または、釉薬を作る上で主原料になり土灰(アルカリ成分)を混入することで土よりも良く溶けガラス化します。長石の代わりになります。 ◇固まり具合を見る:粘土状であれば問題ないのですが砂状とか砂岩状である場合、ある程度の力で粉砕できるのかが問題になります。スタンパーなどの機器を使った方が良いのですが砂岩状であまりにも堅すぎると困難ですのであきらめた方が良いと思います。(スタンパーとは日本で言う唐臼のことで、臼の中に土石を入れ杵で付いて粉砕する物で今日は電動で動く物をいいます。)
また、砂岩状でなくとても硬い岩石でしたら土には向かないと認識して下さい。釉薬には使えるかと思います。
見た目で硬い岩石ほど耐火度は低いと思っていいでしょう。一般に多く使われてる黒い砂利なんかは粉砕して細かくすれば黒い天目釉か飴釉になるでしょう。
◇最終的には窯に入れ高温で焼いて試験してみないと判断が出来ないのですが、生土の状態で判断するには上記を参考にして下さい。
3.身近な土石類でどのように扱う
- 粘土状の土は長年の雨風で岩石が風化され雨水により流され堆積したのもので、その粘土で轆轤に乗せ器物を造るのですが極端に造りやすい物でしたらそれは焼き締まる土としては不的確と判断して下さい。
そのわけは先ほど説明があった三成分のアルミナ分が多いということです。アルミナ分が多すぎると骨格成分が多すぎて高温焼成でも焼き締まらず「吸水性」が生まれて生地の中に汚れが入り込み衛生的にも良くないようです。
また違った見方として、その粘土状の土を水簸します。 - 簡単な水簸の方法
◇土を天日で充分乾燥させハンマーで砕いて固まりを小さくします。
◇バケツに半分ぐらいに土を入れ、満タンに水を張り、土が水に溶け込むのを確認して拡販します。
◇充分拡販したら20分ぐらい放置します。バケツの中がどの様になっているかを確認します。
◇細粉と粗粉に分けられ、粗粉が底の方に沈殿し細粉が水の中に浮遊している状態と思います。
細粉はアルミナ成分が多し粒子と考えられます。
今一度拡販し、今度は1分ぐらいたって水に浮遊している部分の水を掬い別もバケツに移します。粗粉が混じらないように用心し浮遊している水だけを写します。粗粉の所が見えたら再度満タンに水を加えます。それを何回か繰り返して細粉と粗粉に分けます。 - 砂岩状の石は細かく砕ければ楽なのですがそうでなかったらスタンパーなどの機器を使い細かく粉砕します。
細かく粉砕した粒子を水につけ粘土にしますが、粘性がなく轆轤でもひけない状態でしたら上記で水簸した細粉の分の土を混ぜ込み作れる状態までします。あまり混ぜ込むと焼き締まらなくなりますので注意が必要です。
水簸した細粉の土を混ぜ込まなくても作れる方法は、時間をかけバクテリアを発生させ暗い所に安置し自分で粘りを出す方法「寝かせる」と言います。時間がある方はこの方法をとってみては如何でしょうか。
同じ粉砕した粒子を使い土灰を混ぜることにより釉薬となります。 - 先ほどまでとは違い一体感のある岩石は粉砕するのに器具や設備が必要となるため容易には出来ません。粉砕するのに時間がかかったり、それを水簸するのにも器具や設備が必要となります。でもそれが可能であれば、ベストな方法となります。
不純物が少ない単一な成分で精製が出来て安定した物が出来てきます。土であったり釉薬であったり焼成方法であったりします。
4.歴史で見る土石類と古陶磁の関係
- 私の身近な所で言いますと、古唐津の時代以前には土石を精製する技術はなく、朝鮮陶工の帰化と共に精製する技術が用いられ唐臼で土石を粉砕し水簸という技法で土や釉石を作り、生地の上にガラス質をコーティングするいわゆる陶磁器が生まれます。
古唐津では陶石を発見する前に砂岩質もしくはそれに似た粘土質の土石類を唐臼で粉砕して水簸し、土や釉石などを作っていたようです。可能な限り珪石分が多くアルミナ分が少なくなるよう工夫し、作りにくくキレやすい土の性質をロクロの制作時の技術でカバーしています。
初期伊万里の時代、まだまだ精製方法は安定せず幾らかは木目の細かい粘性のあるアルミナ分が多く含んだ白い土を混ぜているようです。その証拠に初期伊万里には貫入が多く見られます。これは土の収縮率と上薬の収縮率違う場合に生じる物でそれは土の中に含まれるアルミナ成分の原因と考えられます。
それから数十年後有田の方で良質な不純物の少ない陶石類が発見され、先と同じく精製方法で故郷の李朝風な初期伊万里が生産されます。さらに精製する技術や設備が安定するのと中国のデザインを学び古伊万里が生産され海外へと輸出されるようになります。 - 唐津特有の技法叩き造りで使う叩き土は先ほどの精製された土をベースに沼地なんかに堆積する有機物が多く含んだきめの細かい土を混ぜ込み作られているようです。有機物の含んだ粘土を混ぜ込む事により粘性が増し、より紐土を細く延ばす事が出来、器物の肉厚を薄くまたは重量を軽くすることを可能にし、窯の中で焼いたときは有機物が塩基成分を発散し土を焼締めると言う効果が生まれ薄くて軽くて丈夫な焼き物が出来ます。
※参照唐津焼伝統技法 叩き造り - 古唐津の古窯である帆柱窯の斑唐津の茶碗はどのような成分の土と上薬かといいますと、先ほどの砂岩質もしくはそれに近い粘土状を粉砕や水簸し、やや粗めが多い土で成形しているが砂毛が多いように見える土で焼き締まっています。上薬は硅酸分の多い土灰(稲科の植物を燃やした灰)を混入し斑釉になっているようです。
- 桃山期の志野や織部なども古唐津の精製方法と同じのように感じます。それまでになかった白い上薬ができはじめたのはその理由と思います。
5.土石類で土を造る注意点
- 土を見極める意味で「単味の土が良い」という風に言われてきましたが、ある意味では正解で、ある意味では間違った方向に導かれます。これは粘土性の土のことを言われていると思いますが、先の説明のように三成分が上手に配合し焼き締まる性質で粘土状になっていれば良いのですが、粘性が有りそのまま使える粘土成分に限ってアルミナ分が多かったりしますし同じ仲間の鉄分が多かったりしますので要注意です。
- 砂岩質の土石類でも成分が整っているとは限りません色んな配合違いがある物です。やはり焼成し試し焼をしないとはっきりした事はは解らないものですので、まずは試験焼をおすすめします。焼く前にどのような土石類を選ぶかを先の説明を参考にして下さい。
- 粘土質や砂岩質の粒子成分は単一もしくは同一とは限らない物です長石質(アルカリ成分が入る)であったり、アルミナ分が多かったりします。珪石分は元々の主成分ですので多く入っていた方が良いです。水簸すると水の中に浮遊する分はアルミナが多い成分と考え、底の方に早く沈むやつは粒子が粗いか、もしくはアルミナ分が少ない成分と理解して良いと思います。
- 先の説明の三成分を良く理解し、土石の成分を照らし合わせどのような成分構成になっているかを推測し、試し焼を必ず行い焼いた土石を拡大鏡で粒子の状態を確認し、また新たに推測し直して粉砕と水簸を行いどのような配合にするかを決めて新たに土を造り器物を製作し試し焼をします。高温焼成で形が崩れるようでしたらアルミナ分が少ないか長石分(アルカリ分が入る)が多いかと推測されますので水簸で出た粘土性分の土を多く混合するという風に対処していきます。
- 良い土悪い土の判断はなかなか難しい物ですが、白い磁器の焼き物は別として「焼き締まっている土か」とだけを考えますと高台際まで上薬が掛かって焼かれてある焼き物の土は焼き締まりが足りないと判断できます。上薬を掛けないと汚れが付きやすく黒ずんだりしがちです。抹茶を飲む茶道のお茶碗なんかは低い温度で焼かれているのが多いので焼き締まりが足りず高台脇が黒ずむのはその一例です。
- 古唐津の古窯跡の物原に捨ててある陶片を見ますと、上薬で確認しても高い温度で焼成されていないにもかかわらず形が崩れて変形した陶片が多く捨てられています。これで見る限り焼き締まる(極端な言い方で溶ける)土を使っている、もしくはその様な目的で土作りを行っていると考えられます。これは数多くある古窯群の共通な事と言えます。後に民窯になる窯で大量生産されている焼き物の土成分はといいますと、先説明のように手間暇をかけずアルミナ成分が多い土を採取し水簸して粘土性分を取り出して土造りを行っています。出来た器物を見ると赤い色の土味に高台全体まで施釉し焼いています。これから推測すると酸化鉄とアルミナが多く含まれるキメの細かい土である事を意味し、その様な土は大量に見つけやすく、またはとても造りやすく少々の高温でも変形しづらいので手間暇をかけない大量生産が可能となります。これは白くて綺麗で丈夫な磁器が生産されていくことで消費者地の需要と供給のバランスが崩れて、必要性に迫られその様な傾向になってしまったようです。
参照
唐臼
私の実家ではこのような人力の唐臼で土を作っていましたので、子供の頃よく踏まされていました。今は機械化して電動のスタンパーを使っていますが昔はのんびりしていたのでしょう。