◇叩き技法の分析
下図の陶片は水指の矢筈口の鐔の所ですがこれを見定めすると分かったことですが叩き締めて形を形成するときには一切水を使ってない事と箆だけで押し締めて形作るようです。訳は矢筈口の押し曲げた内面には叩き紋様波状紋がそのまま残っていることや指の跡は残っていないことなどです。つまりは紐状の土で積み上げた筒状の土管を叩き板で叩き締めて形を成形するときは箆などで外から押し当てて矢筈口の形作りをしているようです。
板起こしの技法は積み上げた筒状の土管に水をつけて形作りをするのですが、この水指だけは鐔の所だけ水をしたため布か皮を当てて成形しています
なぜそうするかは水を使うと土の締まり具合があまくなるので矢筈口の部分を強くするため水を使わないのだろうと考えられます。
◇叩き造り土の分析
この陶片の割れた断面を見ると土の構成が分かります。断面にはロクロ成形で作った器の断面とは大きく違っています。まるで地殻の断層のように幾層もの層が出来ています。これはこの陶片に限らず叩き技法で作られたものは殆どと言って良いほどに共通しています。つまり叩き技法とはロクロ成形とは全く異なった土の造り方をしているようです。 二種類の土を使っています。ひとつはロクロ成形で使う土を基礎的に使い、もう一つは木目の細かい有機物が豊富に入った粘りのある土を使っているようです。この二種類の出来るだけ堅めの土を軽め(堅いので出来なかったかも)に土捏ねし頼紐土を作っているようです。それを重ねる段階で工夫が要って内側に重ねて指でのばし、また重ねるのを繰り返すことにより二種類の土が練り込み状になり層が出来るようです。
可塑性が少ない基礎土に木目の細かい粘りがある土を混ぜることにより頼紐が細く長く出来ます。これは薄くて丈夫な叩き造りの器を作る上で重要な部分です。また水を使わず形を成形する事が可能になるのはこの要素です。
もう一つ重要なのは層に沿った亀裂のような空気の層が挟まれています。これは何かというと先ほどの土に豊富に入った有機物が窯の中で高温になるにつれ塩基成分のガスを発散し火膨れが起こっています。この塩基成分のガスは土を溶かすという役割があります。木目の細かい粘りの有る土はどちらかというと溶けない方の土になりますがこれをカバーする役割でも有り、焼成温度が低くてもよく焼き締まるという効果を生むわけです。
◇釉薬の分析
叩きの釉薬で昔はこう言うのを朝鮮唐津と言っていたようだが現代では白と黒の掛け分けた釉薬を焼いたのを朝鮮唐津といっています。
これもまた塩基成分が強い土灰仕立ての飴釉になります。断面の表層部分には色が変わるほど塩基成分が土の中にしみいって溶かしているのが分かります。桃山・江戸初期の叩きで作られた器物は肉厚が薄く作られているため出来る限り焼き締めておかないと水がしみるようになるため低火度でも焼き締まるというのは絶対条件のようです。