水挽きの時轆轤から製品を離すのに撚糸で切った痕が、渦状の細い線で残ったものをいいます。
藁みごを用いるのを古風とし、水指・花器などの大器には馬尾を用いることもあります。
糸切は茶入の場合には特に一種の注目点となり、琥輔の種類とその運用の仕方によって各特徴を現します。
轆轤の挽づくりの時、手轆轤は右廻り(順廻り)で時計の針と同方向に回転するため、その糸切の痕を右糸切といいます。
蹴轆轤も普通の場合は同様に右廻りの挽づくりであるから、その糸切も手轆轤の場合と同じになります。
しかし特殊な地方では蹴轆轤を左廻り(逆廻り)で挽づくりをするため、その糸切は左糸切となります。
左糸切は日本国内では少数例で、大陶業地には見当たらないようです。
茶入の場合、瀬戸と唐物の茶入を例にとって、日本の轆轤は手車の順糸切、中国の轆轤は脚車の逆糸切と見なし、糸切の順逆で日本製と中国製の区別をします。
『茶器弁玉集』の「糸切之次第」の条下には所掲の図を示して次のように説明しています。
「丸糸切、此糸切上作物に有轆轤目幽に見ゆる也。
糸切、是は右廻也瀬戸焼の糸切は如此に造る物也。
唐物糸切、是は左廻也唐物の手癖也外の茶入に無事也。
箆起底、此通に拵へたる底を箆起とも板起とも云茶入の下地を造立引起手上に置故手筋板目必見る物也。
渦糸切、如此通に太くふかく渦に切物也、是の狼手茶入の手癖引掛也外茶入に無之自然手のしれさる茶入有之稀也。
束土、固土と云は茶入の底を丸くつくねたるを云り又つまみ底と云有右同通に底を細く拵たるを云り」。
右の単に糸切というのは右糸切で、すなわち日本風の本糸切・順糸切などと称されるものであります。
また唐物糸切は左糸切で外国風の逆糸切であります。
その他正式の糸切ではないものを挙げたのは器の底を糸底と称するためらしいです。
わが国の須恵器に、糸切痕が認められるのは八世紀からでありますが、中国では竜山文化の黒陶にすでにみられます。
なお考古学では、轆轤の回転を停止してから糸で切ったもの(静止糸切)と、回転を利用して切ったもの(回転糸切)とを区別しています。
須恵器においてもクレタ島のミノア文明の土器においても、静止糸切は回転糸切の手法に先立ってみられます。
考古学的記載は「須恵器」「土器製作法」の項を参照。