茶器のいわゆる名物には三種あります。
千利休以前、特に東山時代のものを大名物といい、利休時代のものを単に名物といい、降って小堀遠州が選定したものを中興名物といいます。
近代では名物と中興名物とを共に名物といい、大名物と名物との二種に取り扱う風があります。
大名物は足利義政が東山の別荘にあって名画・妙墨・珍器・宝壺の類を集め、当時の数寄者能阿弥・相阿弥・引拙らに品定めさせたものであります。
名物は織田信長・豊臣秀吉が津田宗及、千利休らに品定めさせたものであります。
大名物・名物には唐物が多いようです。
中興名物は藤四郎以下後窯国焼などの名品で名物に漏れたものを小堀遠州が選んだものであります。
名物選定に関する参考書としては『君台観左右帳記』『茶器名物集』『天正名物記』『東山御物内別帳』『玩貨名物記』『和漢名物茶入秘録』『遠州御撰十八品』『遠州所持名貨記』『遠宗拾遺』『極秘目利書』『茶器目利聞書』『名物目利聞書』『名物記』『古今名物類聚』『瀬戸陶器濫胴』『干家中興名物』『麟1亀龍』『閑窓雑記』『本朝陶器放証』『土屋蔵帳』『遠州蔵帳』『茶器名物図彙』『名物茶碗集』『苦心録』『楽焼名物茶碗集』などがあります。
詳細で早く体裁を成したのは天正年間(1573-92)の『茶器名物集』であるようで、山上宗二の撰で『山上宗二記』とも呼びます。
『玩貨名物記』は万治三年(1660)の序がある刊本で、本書所載のものはみな大名物とされます。
茶入の名物については松平不昧が深くこれを研究し、『古今名物類聚』『瀬戸陶器濫筋』の二著があって茶入名物の底本とされます。
茶碗の名物には底本とすべき詳細完全なものはありませんが、『名物茶碗集』その他上掲の諸書を参照してこれを定めます。
大正になって高橋篇庵が『大正名器鑑』の大著を出しました。
茶入・茶碗の名器の大図録で関係記録を載せています。
この書には従来の名物のほか著者の選定によるものをも合わせ掲げているのでとかくの論議もありますが、茶器名器の図録としては空前の大冊であります。