備前伊部焼に狸狸徳利と称するものがあります。
形が狸狸が徳利を持った姿に似ているからの名でありますが、実は童女が徳利をささげて酒を注ぐような形をしているものであります。
形状が奇怪で、古いものには箆使いなど感ずる点がありますが、後代のものは写実風がまさっていておもしろみが少ない憾みがあります。
あるいは京都の松尾神社に納めたことからこれを俗に「松尾さん」と呼ぶといいます。
また布袋が徳利を抱えた形のものがあるようで、同じく狸狸徳利と呼んでいます。
また豊前上野焼の狸狸徳利と称するものは全形が狸狸に似たものではなく、白地に緑青の流れた具合が狸狸の後姿に似ているのでこの名があるといいます。
また肥前(佐賀・長崎県)の各地や淡路焼などに、全形が狸狸の立ち姿をしており狸狸の面の形をした蓋をかぶった徳利があります。
蓋はただちに盃に用いることができ、蓋を取り去ると狸狸の面に代わっておかめの面が現れ、おかめ徳利となるようなものもあります。
(『茶わん』二三)