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鶴田 純久の章 お話

草木の灰類を媒熔剤とした釉薬。
東洋の陶磁器は一般に灰類を最も重要な釉薬原料としていましたが、近代になって灰類の代用として石灰石・滑石などを常に使用するようになってからは、灰類の需要は大幅に減少しました。
しかしそれでもまだ灰釉が尊ばれるのは、釉調が非常に優雅で石灰石・滑石などの釉薬によっては到底求めることのできないよさがあるからでしょう。
日本・中国・朝鮮で使用される灰類の種類は非常に多く、各製造地でその地方特産の草木の灰類を使用します。
わが国でも、イス灰・樽灰・棒灰・儲灰・栗皮灰・香撥灰・柚灰・羊婆如灰・杉灰・松灰・雑木灰・土灰・紺屋灰・竹灰・藁灰・籾灰などその種類は数えきれないようです。
これらの灰類は草木を焼いて得た灰を水簸して、燃えかすや混じり物を除くと同時に、いわゆる灰汁抜きといってアルカリ塩類を除去したものであります。
以上各種の灰類は各特質を持ちいずれも性質に多少の相違がありますが、イス灰類・土灰類・藁灰類の三大系統に区別することができます。
1)イス灰類この種の灰類は特に灰をつくる目的で特殊な草木を焼いたものですので、比較的純粋で鉄分の含有量が少なく、使用釉薬は白色に近くわずかに淡青磁調を帯び、呉須染付用釉薬として最適であります。
棒灰・香撥灰などこの種類に属するものは多く、中でもイス灰は代表的なもので品質が最も良くまた最も高価であります。
2)土灰類薪材の使用後に得た灰類で、成分は一定せず主として雑木類の灰であります。
燃料の廃物なので土石類・鉄分などが混入しやすく非常に不純であります。
最近は一般に品質が低下し、時には石炭灰を混入してまったく使用できないものが出てきました。
土灰類は呈色剤である酸化鉄・酸化マンガンを多く含有し、その釉薬は酸化焔では黄褐色を、還元焔では淡青緑色ないし褐色を帯びた緑色を呈します。
3)藁灰類この種に属するものは珪酸質草木の灰類で、通常藁灰といわれるものは稲の藁を焼いたの石粉砕・水簸したものであります。
焼時に炭素分を焼却するのが困難ですので、藁灰は通常真黒色で炭粉のようであります。
籾灰もこの部類に属します。
藁灰類は一般に土灰類と混用し乳白色の不透明光沢釉として使用されます。
以上三類に分類できますが、これらの三種の中間の性質をもつ灰類も多数あります。
そしてこれら灰類が他の原料と比較して大きく異なる点は、リン酸を含有していることで、灰類を利用した古陶磁の釉薬にはリン酸の影響が非常に大きいのではないかと考えられます。
(『陶磁器試験所報告』『古陶磁の科学』『釉調合の基本』)

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