古来、灰匙は利休好みが一般化してその金味が珍重されてきたが、金属部分に金銀象嵌を施して装飾を始めたのが松花堂好みの灰匙で、これは武蔵すすき野文様とでもいえるような薄に三日月文様を銀象嵌で現わしたもので、古作はきわめて少ないが、この灰匙はかなり古い時代のものといえよう。
松花堂昭乗(1584~1639)は石清水八幡宮寺滝本坊に住し、文人数寄者として知られ、その書風は大師流を極めて一家をなし、「寛永の三筆」の一人に数えられ、また茶の湯は遠州・久保権大輔などと交歓し、その茶道具の所蔵は『滝本坊蔵帳』に記され、八幡名物として名高い。
【寸法】長さ20.9
【所蔵】藤田美術館