伊部焼 いんべやき

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鶴田 純久の章 お話

備前国(岡山県)の炻器。
備前市伊部で産し、尹部焼・印部焼とも記し、一般には備前焼と呼びます。
【沿革】備前の地で土器を製出しだのは古いですが、備前焼としての起こりは鎌倉時代で、当初の害窯は熊山山腹にありましたが、のち今の伊部付近で焼くようになりました。
始まりは応永年間(1394-1428)とされ、当時伊部には三窯あって、櫃原山下にあるものを南窯と呼び、不老山下のものを北窯といい、育王山畔のものを西窯と称し、水甕・種壺・種浸壺などの農具を製しました。
窯は大窯でいずれも長さ三五メートル程、横幅四・五メートル程あり、一窯に器物三万四、五千個を入れ、薪材五四、五トンを用いて三十余日間間断なく焼成した’といわれます。
その後花瓶・酒場などをつくり、天正年間(1573-92)になってこの業が大いに進み、初めて茶壺をつくりまた茶碗や置物なども製出しました。
後世これ以前を古備前と称しました。
その後特に明和・安永(1764-81)頃から天明・寛政(1781-1801)の間は最も隆盛を極め、備前の特色とする火襷(紅条の斑紋が束縛するように器物の表面に現れたのをいい、質は白土で全体が無釉である)の類から、精巧で青色を帯びたいわゆる青伊部または青備前と称する良品を製出しましたが、1832年(天保三)に大窯を廃止して長さ約一六メートル、横幅約四メートルの小窯に改築してから品質が急に衰えたといわれます。
昔の伊部焼は大饗・木村・森・寺見・金重・頓宮の六姓で業を世襲し、四十六家に制限していました。
その後明治維新となりますます衰頑しましたが。
1878年(明治一一)に同地に伊部陶器株式会社ができてもっぱら土管を製造し、1896年(同二九)には備前陶器株式会社が創設されて盛んに耐火煉瓦や装飾用陶磁器類を製出しましたが、同地固有のいわゆる備前焼は衰微して振わなくなりました。
しかし伊部の原料は非常に微細な分子から成り、含有する酸化鉄分が多くて耐火度が低いとはいえ焼き上げたものは質が非常に緻密堅硬となり、他の地方では容易に模倣できない逸品をつくり得るため、貞観(859-77)・延喜(901I二三)頃から本陶器を践祚大嘗祭の神器に当ててきたといいます。
昭和三 1928年11月に行われた御大礼の御調度品として伊部焼瓶子調製方を同町木村兵次が命じられた。
「製品」品質は炻器に属し、品種は茶壺・茶碗・酒堰・摺鉢から偶像その他動物類の置物などを得意として、巨大なものが少なくありませんが、現在の技術は昔のものには及ばないようです。
古風の備前焼は無釉の焼締めから発達して雅趣ある自然の景色などを特色としましたが、のち釉薬などを用い始めてかえって無趣味に陥りました。
今に伝存する備前焼は古くても茶用の水指に見立てられた種壺・種浸壺などであります。
種壺の口はたいてい拳の入る広さで、肩に二つまたは四つの耳があります。
この耳が飾りだけで紐の通らないようなものは後世の作であります。
種浸壺は種壺よりも大きく胴に膨らみがあって肩には耳はないようです。
耳のあるものは後世特に茶壺としてつくらせたものであります。
のち天正(1573-92)頃から茶器を焼出し南蛮物を模しましたが、それほど剛堅の質ではなく畳付にも南蛮ほどの落ち着きはないようです。
当時の備前焼は豊臣秀吉の保護を受けて発達し、名工も多くいて後世これを古備前と称しました。
古備前の特色としては、土は紫土でそれに火襷と松葉焦げと榎肌の三種が現れています。
火襷は元来藁の焼けた痕で不規則なおもしろ味がありますが、後世の人工的なものは模様が規則的でおおむね白土であります。
松葉焦げも松葉の焦げた自然の痕の乱れ模様でありますが、後世の人工的なものは雅趣に乏しいです。
古備前の榎肌はまれなもので、火焔が間接に当たった所が蒼黄色に変化したものであります。
伊部手とは塗り土をしたのが釉状に光沢を出したもので、室町末期から始まりますが、のちには紫土に胡麻釉が掛かって榎肌のような色合いを呈したものを特に伊部焼といい、赤土で薄釉の掛かったもの、あるいは飴釉・蒼釉のものなどを備前焼と呼び分けるようになりました。
寛永年間(1624-44)の池田侯の入国以来、細工御用達の制が設けられ、それ以後人物鳥獣などの置物細工が流行しました。
天正年代の窯印とその工人らを詠んだ歌に「井は古し、松葉正玄、丁新兵衛、丸は宗伯、十は茂右衛門」などがあります。
「原料」昔から二種あります。
一つは伊部土で、帯黄灰色を呈し細砂および豆粒大の石粒を混ぜたものです。
他は磯ノ上の粘土で、伊部から八キロ余り離れた邑久郡磯ノ上村(長船町磯上)の畑地から採掘し、鼠色の粗砂を少ししか含まないものであります。
製法には特殊な方法はなく、一般製造法と異ならないようです。
(『古伊部神伝録』『陶器考付録』『本朝陶器破証』『伊部陶誌』『日本近世窯業史』『北村弥一郎窯業全集』『備前窯陶誌』『日本窯業大観』)※びぜんやき※こびぜん

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