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鶴田 純久の章 お話

中興名物。高取焼耳付茶入。
その産地の縁で九州の名勝横嶽の名を銘としました。
口が広く甑はなく、薄づくりの方で、肩に相対して捻り出しの小耳があるようで、肩は大きく面を取り、胴の上に沈筋一線を巡らせ、以下は次第にすぼまり、腰以下は高く鼠色の土を見せ、糸切はやや荒く縁に切箆目があります。
総体は柿色および紫味を帯びた黒釉で、肩先は高取特有の黄飴色が錯綜しておもしろい景色をなし、肩下からI筋のなだれが腰のあたりに達して止まり、釉溜まりはやや厚いです。
かつて火災にかかり外部が少しカセ気味でありますが、景色は変化に富み、特に耳付の形状はすこぶる茶味があります。
この茶入はもと松平右衛門太夫正綱が高取窯元に命じて焼かせたもので、その後酒井修理太夫を経て、土屋相模守に伝わりました。
1772年(明和九)板倉伊勢守が土屋家からこの茶入を借用し、返却したその夜、土屋邸から出火して邸宅を全部焼失、幸い茶器倉は残りましたが、不幸にも横嶽は取り出してあったためその付属品は全部焼失しました。
諸茶書にはこの茶入を焼失と記していますが、少し釉色を損じただけで原形を保持し土屋家に相伝しました。
(『古今名物類聚』『麟鳳亀龍』『大正名器鑑』)

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