Picture of 鶴田 純久の章 お話
鶴田 純久の章 お話

所蔵:藤田美術館
高さ:8.2~8.9cm
口径:13.8~14.5cm
高台外径:5.7~6.5cm
同高さ:1.1cm

 白い薄もやを通して、ほのぼのと明けそめた朝空の快い淡紅色、その色感をそのままに朝陽と名づけられています。しかし、この一碗、普通の志野とはいささか趣を異にする一種風変わりの志野茶碗です。
 まず。頑丈な十文字の割高台が異様です。ことに十文字が太く切り込まれて、大きく四つ足のように見えます。この大きな高台にささえられた器体は。また広く豊かで、総体いかにも高麗茶碗の割高台の作ぶりを想わせるものがあります。
 だいたいの成形は、まず轆轤(ろくろ)で粗造りをしておき、仕上げは主として指頭で表面をまんべんなく整えてゆくやり方です。普通の志野のように箆を駆使することはほとんどなく、腰まわりに一段くぼみが見えますが、これも指頭で半ば押しつぶすようにしています。口縁の抑揚やひねり返しにも箆目は見られません。したがって全面にわたり、なんとなく手造りのような感じが強いです。
 施釉は全体をずぶがけにしていますので、土見の個所は、わずかに高台裏の一部と、見込みの四つの目跡にうかがえるだけで、こういうところにも高麗茶碗のふうが認められます。
 釉層は厚薄のむらが多く、とくに外側面では薄いところが多く、ここに素地の鉄分がむらむらと淡紅く発色して。朝陽の清らかさ、暖かさを感じさせています。
 そして、正面よろしきところ、土蜘の向こうに仏塔一基がそばだち、その先端の九輪と上層部が静かに朝もやの中に隠見し、その左右少し離れて松樹が二本、筆数控えめに淡々と描かれています。その簡素な画面にあって、余白の空間は非常に広く、その広がりの中に東天の紅潮が次第にきざしているといった情景になっています。なお、茶碗の内外、口辺に近いところには、粗い灰色の刷毛目が一条、流れるように水平に走っています。刷毛目といっても、規則正しい間隔の、櫛目といってよいほどのものですが、これがまた、朝陽を受けた薄雲の遠くなびぐように見えるのです。すべて陶工の予期しない、すばらしい自然の効果です。
 見込みはまた広く豊かで、側面から底面へかけて釉層しだいに厚く、乳白色の艶のある美しい面になっています。そして、その釉裏には灰黒色の刷毛目が三つ四つ走り、それに目あと四つが歴然と点在します。外側の画題が静の趣であったのに対し、見込みは軽い筆触で動きのある諧調です。すぐれた技術が内に秘められて、はじめてこうした妙味ある効果が出たといえましょう。
 なお、これと同種の志野茶碗に、故長尾欽弥氏旧蔵の名碗「岩橋」があります。形もほぼ同形、画題も筆致軽妙の塔一基で、形式酷似した一碗ですが、ただ火色において、朝陽が淡紅であるのに対し、岩橋はやや灰色がかった、鼠志野ふうになっています。
 伝来は藤田家に入るまで、すべて不詳です。
 箱表書きの筆者も不詳。
(藤岡了一)

志野 割高台 茶碗 銘 朝陽

Shino tea bowl with wari-kodai (foot rim cut into quarters).known as ‘Choyo’
Diameter 14.6cm Fujita Art Museum
高さ8.5cm 口径14.6cm 高台径6.5cm
 藤田美術館
 この茶碗は志野としてはきわめて類例の少ない、いわゆる割高台の茶碗で、他に二点知られています。明らかに高麗茶碗の割高台を倣った姿で、総体に薄作りであります。口端を細く捻りかえし、高台は十文字に切って割高台としています。釉がかりは薄く、高台に至る全体にかかっていますのも志野茶碗としては珍しい。また鉄分の多い土が使われたためか、釉下から赤味が全体にあらわれ、胴には塔のような文様が細い線描きで書かれてる。これと似た作行きのものに 「岩橋」といいます茶碗があり、またかなり作行きは異なりますが、胴に唐草文様をもつ割高台の茶碗が現存しています。おそらく慶長年間前期の作と思われます。

朝陽 ちょうよう

名物。志野茶碗。
釉色が紅色を呈し東天紅の景色があるのでこの銘があります。
割高台。
藤田平太郎家旧蔵、伝来は不詳。
(『大正名器鑑』)

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