高さ:5.4~5.9cm
口径:16.6~17.0cm
高台外径:5.0cm
同高さ:0.8~1.0cm
薄手でやや大形の、明るい感じの刷毛目平茶碗です。特に銘はつけられていません。総体、作意のないさらりとした茶碗で、そのさわやかさが魅力になっています。轆轤(ろくろ)成形が軽快で、高台から口縁へかけて薄く、しかものびのびとその口縁部ではかすかにひずみを見せながら、快適な広がりを示しています。平茶碗といっても浅くはなく内容はむしろ広潤です。外側胴部にはくっきりと二条の凹線が回っていて、この線を境に口縁へのびる面はほぼ平らかに広がり、高台わきへかかる面は、美しいふくらみを見せています。速い轆轤(ろくろ)と無造作な処理がこのなだらかで張りのある形を生んだといえましょう。高台の削り出しも、あざやかです。竹の節高台がかっきりと引き締まり、その内側には鋭いうずのえぐりあとが見られます。中心は兜巾状、ただし先端が指先で押さえられ、小さぐ丸めちれているのは珍しいです。高台の一部には小さな火間があって、そこだけ赤みをおびたかっ色になっています。ごれは施釉の際に、指先のあたった跡でしょう。これによって、素地は緻密でかなりの鉄分を含み、堅く焼き締められているのがわかります。このような素地に白化粧を施すことによって、白い清らかな焼き物ができるわけで、粉引や無地刷毛と呼ばれるむのがそれです。刷毛目は、その自化粧の転化したものにほかなりません。
この茶碗では、刷毛目は内部全面と外部半分ばかりに施され、それに透明の上釉が、器面全体にわたってずぶがけされています。特に外側では、素地の土色が上釉を透かして灰青色にはっきりと出ているのが、白い刷毛目をいやが上にもひきたてすいる。刷毛目は、大きな刷毛に白泥をたっぶりふくませて、一気に一回旋また二回旋、、みごとなタッチで刷毛筋が勢よく走っています。これに対し、内面は見込みいっぱいに、巴状の大きな刷毛目が豊かにめぐりい白土の層が厚く薄ぐ全面をおおって、素地はその間に二~三条鋭い線となってのぞいています。そして底部のいわゆる「かがみ」になったところには、砂めの跡が六ヵ所、薄黒く残っています。こうした刷毛目は、それだけでりっぱな紋様であり、この単純きわまる刷毛目だけの手慣れた意匠のほうが、茶碗にはむしろふさわしいといえましょう。また高台裏では、赤い火間のほかに、点々と濃いピンク色の御本が見られます。このほか黒っぽい砂目跡や、三日月形のひび破れーこれは内外に通っている山きずであーなど、この茶碗ではいろいろの景色が高台に集まって、珍しい作ゆきになっています。これがこの茶碗の、一つの見どころでもあります。
刷毛目は他の三島手とともに、朝鮮南部地方一帯の各窯で製作されており、そのうち忠清南道の鶏竜山窯の三島が、特に優秀なものとして著名です。この茶碗も作調強く、刷毛目の軽快であざやかなところ、あるいは鶏竜山の製ではないかと思われますが、なお素地や高台に、そうと断定しかねる点もあり、しばらぐ疑問としておきます。
伝来は、東京神田駿河台の浅田家に伝わり、故徳則氏の特に愛玩したもの。昭和九年、重要美術品に認定、のち同家蔵品売り立てで大阪の茶道具商池戸宗三郎氏の有となり、現在は大阪某家の所蔵となっています。
(藤岡了一)