中興名物
所蔵:五島美術館
高さ:8.7~8.8cm
口径:15.0~15.8cm
高台外径:5.9cm
同高さ:0.7cm
この茶碗も、関戸家所蔵の本歌をはじめ、「奥田」「朽木」「土岐」銘の伯庵などとともに、小堀遠州が推尚した名品、いわゆる中興名物で、「奥田」と並んで昭和八年七月、重要美術びわ品に認定されています。「奥田」と同じような大振りな姿で、約束の枇杷色の釉調にしっとりと潤いがあり、落ち着いた趣が深いです。胴中央からわずかに下辺にある一すじの割れ目から、なまこ色の釉が高台ぎわに向かってつらら状に流下しているのも約束どおりですが、高台ぎわちかくの釉切れの部分が厚く凝って、オパール石のようなはなやかな釉調になり、さらに釉が一条高台裏へとなだれ込んでいるなど、他の伯庵に比べて景色に富んでいます。高台ぎわから高台裏に見せている露胎は、やや粗い質の鉄色土であって、高台が竹の節状になり、畳つき面は広狭のあるいわゆる片薄に、また高台裏の中央が巴状になるなども、また伯庵に共通した約束どおりです。しかし、片薄になった高台畳つき面は、唐津陶の碗などにしばしばみられる三日月状のように、広い部分と狭い部分の違いがいちじるしいです。
外表と同じように内側にも轆轤(ろくろ)目をくっきりと現わしていますが、とくに見込みの茶だまり周辺のそれは顕著であって、その周辺に大小数ヵ所のなまこ斑があります。
この茶だまりになまこ釉が表れているのは「奥田」伯庵と似ていますが、「奥田」より多く、したがって見込みの景色もいっそうはなやかです。これらの轆轤(ろくろ)目跡がいちじるしいのは、井戸茶碗が示す躍動的な趣に似ているとともに、また内外側にかけた変化に富む釉調には華麗な感が濃いです。古来から伯庵茶碗の中でとくに高ぐ評されているのは、このような点からでしょう。
内箱 桐白木 蓋表書き付け「瀬戸 伯庵 茶碗」小堀遠州
外箱 黒塗り 蓋表青貝銘「瀬戸 茶碗 伯庵」松平不昧
ほかに古筆了延の極めが、松平不昧書き付けの桐白木箱に収めて添えられています。
この茶碗に付けられた「冬木」の名は、もとは江戸深川の富商冬木家が所蔵したからでした。のち下総国佐倉城主堀田相模守、江戸の人樽与左衛門と渡り、寛政のころ出雲松江城主松平不昧の有になった同家に伝世しましたが、第二次大戦後同家を離れました。なお松平家には、この碗とともに「奥田」も秘蔵されていましたが、これもまた「冬木」と同じような経路をたどり、現在は東京の数寄者某氏が所蔵していると伝え聞いています。
(田中作太郎)
瀬戸 伯庵 茶碗 銘冬木
高さ8.8cm 口径15.7cm 高台径6.9cm
五島美術館
伯庵茶碗では関戸家に伝来した本歌伯庵がもっとも著名であるが、かつて松平不昧が所持していたこの「冬木伯庵」も優れたものの一つであります。江戸の豪商冬木氏が所持し、後に松平不昧の蔵となったものであります。
冬木伯庵 ふゆきはくあん
中興名物。伯庵茶碗は古くから、その出生についていろいろな説があった。
瀬戸説・朝鮮説・中国説・9州説などで、今日では土味・釉調などから瀬戸説が有力である。
伯庵の第一の特徴は腰にある山道で、一本の亀裂に卯の斑まじりの青釉がかけられ、大きな景をなす。
土は紫褐色の土見で、高台は片薄高台である。
内部にも海鼠釉の点々とあるところなど他の伯庵と異なり、伯庵中の白眉といっていいだろう。
【付属物】外箱-黒塗几帳面、青貝銘、書付松平不昧筆
【伝来】冬木喜平次-堀田相模守-樽与左衛門-松平不昧
【寸法】高さ8.4~8.7 口径15.4~15.8 高台径5.8 同高さ0.7 重さ415
【所蔵】五島美術館
中興名物。伯庵茶碗。
江戸冬木喜平次所持、堀田相模守、樽与右衛門を経て寛政(1789-1801)の頃松平不味に人り、以来雲州家に伝わりました。
現在は五島美術館所蔵。
(『古今名物類聚』『大正名器鑑』)