角形の輪郭内に福字を書いた記号。
中国においては福字・寿字を愛用し陶磁器にも多く用いるか、わか国でも古くからこれを模し、ことに肥前(佐賀県)の磁器の古製に著しく、九谷焼および京焼などにもまた多く用いています。
初めはあえて特定の商標を意味しませんでしたので、その輪郭に単複などの相違があります。
文字も篆・楷・草の諸体があって、さらに多年の模写を重ねるうちに千差万別の観を呈するようになりました。
有田付近の古磁器には草体が多く、初め主として百聞窯・筒江窯・黒牟田窯などにみえ、一言でその特徴を示せば「重線角に螺旋福」と称することかできます。
また九谷は楷書体の福字が多いようです。
1885年(明治一八)になり肥前有田南川原の酒井田柿右衛門はこれを自家の商標として登録しました。
もつとも柿右衛門家においても古くから二重角内に草体の福字を書き、その田宇の部分が渦巻き状なものを用いてきましたが、登録以来角福印がその専用となったため他の製陶家としばしば紛争を起こすようになりました。
大正年間には有田の今泉家との間に訴訟問題があり斯界の論議を巻き起こしましたが、のちに訴訟を取り下げ柿右衛門方に謝し、自らは今右衛門焼を称しました。
近代この角福印の登録商標は柿右衛門合資会社の所有となりましたが、1928年(昭和三)柿右衛門が同社を脱退し「柿右衛門製」の銘をもって独立したため合資会社の専用となりました。
なお近代の粗製品中に角福と酷似した角婦印あり、婦字の草体か螺旋福と鑑別しにくいもの行われています。
(『九谷陶磁史』寺内信一塩田力蔵)