書名。一巻。伊勢本一郎著。
1957年(昭和三二)技法堂刊行。
本書は『近代日本陶業発達秘史』の題目で1950年(同二五)に出版されたものの改訂版であります。
著者は1872年(明治五)島根県に生まれ、東京商業学校(現一橋大学)卒業。
1893年(明治二六)2月、森村市左衛門経営のアメリカ向け雑貨輸出業である森村組本店に大社し、陶磁器雑貨の輸出に従事しましたが、1909年(同四二)名古屋の日本陶器会社に転任し、作業服時代から支配人・取締役に至るまで営業と生産の両方面に携わり、明治・大正・昭和の六十五年間にわたりこの業に尽くしました。
本書にはその間に直接に取り扱った事項と、直接間接に見聞した事項を集録しており、陶磁器生産技術の進歩発展、人事の交流、業界の変動などが手に取るようにわかります。
すなわち日本陶器会社が発展分化して、東洋陶器、日本碍子、日本特殊陶業、大倉陶園、伊奈製陶などの諸大会社の出現となり、その他の群小製陶所とこれに関連する諸事業が現われ、わが国の陶磁器生産と販売は、この系列に加わらないものは生存の資格を失うかの感をかもし出したことを、的確に記録している貴重な文献であります。
わが国の独占商業資本主義の発展が、独自の成長を遂げようとしている幾多の地方民窯を資本の力で吸収し、その技術も資源も人材も、侵食し破壊し跡形もなくした歴史が想像できます。