わが国に初めて文化財保護の方策が講じられたのは1871年(明治四)の太政官布告「古器旧物保存方」でありますが、1897年(同三〇)に制定された「古社寺保存法」に至って初めて一応の法的形態を整えました。
そしてこの法律において初めて宝物類に対して国宝という名称が用いられ、国宝は甲乙丙の三種に分けられました。
しかしこの法律による指定は社寺所有のものに限られていました。
1929年(昭和四)古社寺保存法をさらに拡充発展させて「国宝保存法」が制定され、社寺有のものだけでなく国有・公共有・個人有のものもすべて国宝に指定できるようになりました。
したがって個人所有の物件でも国宝は原則として海外搬出を禁じ、所有者変更についても届け出主義がとられました。
また1933年(同八)には「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が公布され、国宝に準ずる重要美術品等認定物件の国外流出防止の措置が講じられました。
しかし以上の法律も時代と共に不備な点が多くなり、改正の要に迫られていた時、1949年(同二四)1月法隆寺金堂の火災が起こり、これを契機として強力な保存行政の要望となり、翌年「文化財保護法」の成立となりました。
これにより旧来の諸法は発展的にこの中に吸収されると共に、まったく新たに民俗資料の分野と無形文化財の分野が保護の対象に加えられ、文化財保護の範囲は有形文化財・無形文化財・民俗資料および記念物の四分野にわたることになりました。
文化財保護法はその第二条において、有形文化財を「建造物・絵画・彫刻・工芸品・書跡・典籍・古文書その他有形の文化的所産でわが国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの及び考古資料」と定義すると共に、第二十七条では文化財保護委員会は「有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる」とし、また「重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる」と規定しています。
そして、それまで国宝保存法によって指定されていたいわゆる旧国宝をすべて重要文化財に指定したものと見なし、また重要美術品等認定物件については、そのうち重要なものを重要文化財に指定し、このほか従来まったく未指定であったものを重要文化財に指定しました。
1960年(同三五)12月1日現在における重要文化財の総数は12936件、これに対しこれら重要文化財の申から新しく国宝に指定されたものは1089件。