鎌倉時代の藤四郎（加藤四郎左衛門景正）が入宋の時に中国の土と釉とを持ち帰って瀬戸瓶子窯で焼いたものを唐物といい、和土和釉で焼いたものを古瀬戸といい、真に中国より舶載のものを漢作というとのこと。
これは一般茶家者流の説くところで『古今名物類聚』『瀬戸陶器濫筋』などにみえます。
しかしこの説にも異論があります。
『茶器弁玉集』によれば「唐物の茶入にその説多し、藤四郎作といふ説あり、入唐の瑚かの地にて茶入を焼きわが国に持来り世に弘めたりといひ、或は唐の土を求め帰り瀬戸瓶子窯にて焼くともいへり」といいます。
『槐記』享保十九年甲寅（1734年）7月8日の条には「今の世に唐物茶入といふは藤四郎作なりといへど然らず、真はかの地にて焼きたるものなること必定なり。
支那の商頁にたのみかの国にて古き焼物を探らせ求め得て之を比較して此を悟りぬ。
凡そ茶の湯の事よくく吟味せずして一人かく云ひたりとてそのまま千人万人和してさなりといふ」とあります。
今日藤四郎作唐物を藤四郎唐物と呼び、舶来の茶入を漢作唐物と呼ぶことかあります。
いわゆる唐物と漢作の茶入について『大正名器鑑』は次のように述べています。
「古来漢作と唐物に対する茶人者流一般の見解は古今名物類聚の説に従ふといへど今日の目を以て其漢唐両種の陶器を研究すれば其説あまりに単純にして信を措くに足らず。
今漢作と称する者が支那人の手に成りたるは固より論なし。
而して其唐物と称する者は、悉く藤四郎が支那より携へ帰りたる土と釉とを以て日本にて製造したる者なるべきか。
今日日本に存在する唐物茶入はその名物のみにても頗る多数にして、一人の手にて製作すべきに非ず。
仮りに之を製作し得たりとするも、宋時代に於ける小形の便船に、藤四郎の身分として左程多量の陶土や原釉を積みて之を持帰る事を得べ戸や如何。
左れば今日現存する唐物茶入が、悉く藤四郎の手に成りたりと云ふは、常識の判断を以て、到底信を措く能はざる所なり。
且つ漢作と唐物とを比較するに、唐は漢に比して時代梢若きゃうなれども、其中には殆んど区別する能はざる者あり。
又製作の手際に就いて見るも、作風種々に変化して、固より同時代同一人の手に成りたる者に非ざるや明白なり。
左れば唐物中には藤四郎が真に唐土と唐薬とを以て造りたる者もあるべしと雖も、其大部分は漢作と同様支那に於て各時代に製作せられたる者と見て可ならん。
然れども所謂唐物の作者が藤四郎一人なるか、或は支那諸陶工なるかは、’今日に於て器物の軽重に関係なきが故に、古来茶書に漢作若くは唐物として之を区別し居る者は、総べて其値に記載して古人の意見を尊重する事と為せり。
漢作及び唐物茶入は、肩衝、茄子を始めとして、其他多種多様なれども、是が支那に於て最初より抹茶入として作られたる者なりや如何。
日本の茶書に支那にては此壺類は丸散の粉末を貯ふる薬器なりと記せし者あり、又俗説に或る茶入は楊貴妃の油壺なりなど言ひ伝ふる所を視れば、其中には化粧具又は薬器文房具等に生れたる者無しと謂ふ可からず。
要するに其形状に応じて用途も様々なりしなりませんが、日本に渡来後は、恰も茶事の流行に際会したるを以て、悉く茶入に適用せられたる者なるべし。
漢作及び唐物茶入は、最古は唐時代、最新は明時代に製作せられたる者にして、物に依り時代に五六百年の差等あるが如し。
松平不昧公著瀬戸陶器濫筋に漢は千年より三百年に至る、唐の元和長慶の頃（和は大同天長の頃）より明の景徳天順の頃（和は宝徳享徳の頃）に終わる、唐物は五百年余、宋の嘉定宝慶の頃、和の安貞の頃なり、とあり、今日は不昧公時代より更に百年を経過し居れば、其年代一層加はり、漢唐茶入は伝世古陶器として世界無比の重宝たる事、固より多言を侯たざるなり。
漢作並に唐物茶入が製産せられたる支那の地理に就ては、古来的確に之を説明する者無し、藤四郎の在宋五年間は一地方に滞留せしか、或は各地を遊歴せしか、而して其足跡は那辺までに及びしや漠然として之を知るに由なし。
然れども往時日本の便船は潮流の為めにや、浙江、福建方面に着陸するを例とし、而して福建は建蓋の産地にして、陶業の最も発達したる場所なれば、藤四郎は蓋し此方面に於て見学修行したる者と推測して大過なかるべし。
古来日本に輸入したる漢、唐茶入に就ては種々の説あり、其中には藤四郎は彼の地に於て日本六十六ヶ国に擬へ、六十六個の茶入を製造して持帰りたりと云ふ者あり、叉或る茶書には日本に輸入せられたる漢作肩衝茶入は其数約七十位なりしならんと云ふ者あれども、何れも漠然たる想像説にして到底信を置くに足らず。
本来脆弱なる物質なれば、長年月間に種々の変災に遭うて烏有に帰したる者幾何なるを知らず」とあります。
