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鶴田 純久の章 お話

高さ:7.0~7.5cm
口径:12.0~12.2cm
高台外径:5.5~5.7cm
同高さ:2.3~2.4cm

明時代、福建省で作られたと思われる、下手の青磁です。人形手に属する一種の青磁だろうが内外面とも紋様がなく、かつて類例を見たことのない茶碗でざる。
一見、高麗茶碗かと思うほど、釉調に潤いがあり、しっとりとした味わいがあります。しかし作りを見ますと、中国独特の断裁的なところがあり、中国のものにまちがいありません。人形手でも、これ以上、下手の茶碗は、ないのではないかと思われるほど、荒々しい作りで、当時は、雑器として量産されたものでしょう。
福建省には、南宋から明にかけて、青磁を産した窯が、かなりあるようです。従来、発表ぎれているのは、泉州の碗窯村、路后村、同安県の汀渓、福清県の石坑村、連江県の塘口、魁岐などですが、山游・永春・安渓・竜渓などにも、青磁の窯跡があるらしく、このほか未発見の窯が、まだかなりあるようです。いずれも竜泉ふうの下手の青磁で、概して高台の大きくて高いのが、福建の青磁の特徴だといえましょう。
この茶碗が、このうち、どこの窯で作られたということは、まだ答えられませんが、荒々しい作りや、大きくて高い高台を見ますと、明の福建省のものであることは、ほぽまちがいないと思っています。
長崎は港として古く、珍しい中国のものが、いろいろ之伝わっています。長崎の旧家には、他で見られない器が、時々残っているとのことですが、この茶碗も、かつて見たことのない珍しいもので、古く茶人が、井戸を見立てたのと同じように、長崎の茶人が選んで、茶碗としたものでしょう。「老友」の銘は、だれがつけたものか、だれが書いたものかわかりませんが、いかにもこの茶碗にふさわしい銘です。
素地は、わずかに鉄分のある、ざんぐりとした半磁胎で、これに、細かい気泡のある、半透性の釉薬が厚くかかり、全面に荒い貫入があります。作りは、厚くて、どっしりとし、口は、俗に山道と呼んでいる、分厚く平たい作りで、堂々とした大きな高い高台が、浅い碗形の胴を、ささえているのが目につきます。畳つきは斜めに断ち、底裏も斜めに深く削り込んであります。裾以下露胎、ほんのりと、かっ色に焦げた土を見せています。
焼成は酸化ぎみで、全体としては枇杷色ですが、一部還元ぎみで、青みを帯びたところもあり、複雑な仙調が、この茶碗の一つの魅力となっています。
この類の明の福建の下手青磁には、見込みを蛇の目形に、柚薬をはがしたものがよくありますが、この茶碗は、内面にも、青磁が厚くかかり、目あとが三つあります。よほどよく使った茶碗らしく、見込みをめぐって環状のしみがあり、雨漏ひになっています。
口辺には樋が数本、小さなほつれが一つあるか、完好に近いです。もともとは、名もない雑器でしょうが、複雑な柚調と、使い古した手沢が、いいがたい趣をこの茶碗に添えています。
(小山冨士夫)

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