高さ:7.0~7.1cm
口径:13.0~13.6cm
高台外径:5.0cm
同高さ:1.2cm
染め付けの雲堂手茶碗は、古赤絵に比べて数の多いものですが、しかし鉄鉢形の鉢の子となりますと、やはり少なく、『大正名器鑑』でも、掲載の染め付け雲堂手は、みな筒形のものであって、また世上目暗するものでも、ほとんどが筒形で、その他、絵替わりの松竹梅などもそうです。この鉢の子は、そうした数少ない茶碗の一つで、その絵付も、いっぶう変わったまれな作です。総体、青みのある清澄の白磁で、釉面は光沢少なく、かすかな艶消し状になっており、その柔らかく、おだやかな釉表に、あざやかな青が、くっきりと映えたところ、常の染め付けとは、いささか趣が異なっています。
雲堂の図柄は、原図は明初の染め付けにあります。明初といっても、宣徳以後の景徳鎮民窯の製で、厚手大型の壺に、雲のわきあがる中に、雄大な楼閣を描き、これに人物を配する図柄のものがたびたび見うけられます。雲形は清浄神聖の境域を表し、楼閣は神仏聖者の棲む宮殿でもあるのか、たいてい、騎馬の貴人が数名、従僕に何か捧げ物をかつがせて、楼閣へ馳せ詣でる図です。これが、いかなる画題であるか、何に用いられたのかは明らかでありませんが、当時、一種の型物として、流通していたように思われます。雲堂手は、おそらくこれが簡略化し、さらに形式化したものと考えられるのであって、また鉢の子茶碗が、鉄鉢の一種であること、筒形茶碗は、もとはすべて香炉であったという点を考え合わせますと、これらは、実際は道教の世界に、関係深いものではなかったかと、想像されるのです。
それはともかくとして、この茶碗にあっては、雲堂図は、かなりの写しくずれが見られます。
筆触は手慣れてはいますけれども、どこか朴訥で、稚拙です。雲も波も動きが乏しく、寿石も二本の棒状になっています。もっとも、他の雲堂手のような練達の筆ではなく、気分のくだけだ拙なところが、かえっておもしろく、茶道具としても魅力があります。高台内の「好」の字も、それにふさわしく、屈託のない筆である。また内面見込みには、蓮弁の縁どりの中に、野菊でもありましょうか、かれんな草花図が描かれています。小さい花が、一双ずつ並んでいるのが珍しいです。この種の花と葉の描き方は、明初ふうといってよく、明初民窯の染め付けには、常に見られる種類です。
付属品としては、とくに見るべきものはありません。
伝来は、大阪鴻池家旧蔵のほかは、不詳です。現在は、さきの古赤絵鉢の子とともに、大阪某家の有となっています。
(藤岡了一)