土器装飾法 どきそうしょくほう

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鶴田 純久の章 お話

土器の装飾には、まだ器面が柔軟な段階、生乾きの段階、よく乾いた段階の各段階に加えるもののほか、焼成を終わった段階で行なわれるものもある。装飾を手法のうえから分類すると沈文・浮文・塗彩(彩文)・絵画・顔料充填などがあり、これらはしばしば組み合わせて用いられる。このうち沈文と浮文とは先史土器および現代自然民族の土器を通じて、大多数が焼成前に施している。
【沈文】生乾きの段階に加えた沈文は、しばしばつきぶ施文の際に粘土が移動して、文様の線や点の外に小さな隆起を生じる。また施文の際に加えた力によって、土器の内面に多小とも突出を生じることもある。この極端な例は突瘤と呼ばれ、一方の面からの刺突で、他方の面に突出をつくって装飾としたもの(北海道続縄文式土器)である。乾燥が進んだ段階に沈文を加えるとこのような粘土の動を生じない(南関東縄文早期田戸下層式)。焼成後に加える沈文はまれにしかみられない(イタ新石器時代、アフリカ土俗例)。焼成後の沈文は、その部分と他の土器面とが色が異なって対照をなす点で装飾効果がある。その効果をいっそ高めるため、しばしば後述の顔料充填と結び付いている。器面を多少とも低める沈文としては、刻み込む削り取る・えぐり取る・突き刺したり押圧する土器面上に回転しながら押し付けるなどの手法がある。刻み込む文様は種類に富んでいる。最も簡単なものは線を引く文様であって、直線文(沈線文)をはじめとして波状文渦巻文・鋸歯文・雷文(角ばった渦巻文)・綾杉文など各種各様の幾何学文様がある。これらを描く場合、草木の茎や枝骨などの先端を利用すれば、文様の線は一線から成り立っている。線の数を増すためには、何度も反復して線を重ねなければならないが、十数本数十本の線をこの方法で重ねる例も珍しくない(西日本の前期後半の弥生式土器)。
次に葦の茎や鳥管骨のように中空な筒を縦割りにした原体を用い(半蔵竹管文)、その内側を土器面に当てて施文すると、文様は常に二本の平行沈線から成り立つことになる。さらに先端が櫛状に多数に分岐した原体を用いると、文様は多数の平行線によって構成される(櫛描文)。竹管文や櫛描文の場合は、施文具の一端を中心にして一回転すると、円文ができる(新羅焼)。櫛状工具を四分の一回転すると扇形文ができる(近畿中期弥生式土器)。半回転を逆方向に交互に繰り返して進むと、一種の波状文ができる(近畿中期初め・後期弥生式土器)。この種の波状文は竹管文にもある(関東前期縄文式土器)。次に削ったりえぐったりする手法は、刻み込みの手法をさらに進めた彫刻的な手法ともいえるものであって、簡単なものには、一線を介して一方の面を削り低めて段を形成したり、ある幅を残して、その両方を低めて削り出すことによって突帯を形成する(弥生式土器前期)。複雑な文様を浮き彫り風に表現し、時には穴をあけることもある(東北地方亀岡式土器の精製土器)。次に突き刺したり押圧する文様も多種多様であり、文様の構成からみると、ある範囲刺突文・押圧文を一面に加えるものと、刺突押圧を線状に加えるものとに分かれ、また押圧を加えながら線を引く手法も多くみられる。施文具の種類からみると、竹管をそのまま垂直に押圧すると円形竹管文となる。また半截竹管を垂直あるいはその内側が土器面に当たるようにして用いるとC字形の爪形文が、外側が土器面に当たるようにして用いるとD字形爪形文ができる。このC・D字形の単位を加えながら線を引いて施文するのが、爪形文の普通の施し方である。櫛状工具によ刺突文は櫛描列点文とも呼ばれる最も普通の櫛描文の一種であって、北ユーラシア新石器時代の櫛文土器の文様を代表している。刺突文・押圧文には貝殻を用いたものも多い。地中海沿岸地方の新石器時代初頭の土器はトリガイの縁の押圧文が目立っているので、その貝の名前が文化の名に採用されている。わが国では背に放射状の溝がある二枚貝や巻貝などを用いている。背に溝のある二枚貝の縁を押すと、小さな波状文、あるいは鋸歯文ができる。この線自体は孤形を描くが、押し付けながら調節すると直線を描くこともできる(東九州・西中国前期弥生式土器)。貝の背をそのまま押すと扇形に開く溝が付く(関東前期初頭・近畿中期初頭の縄文式土器)。巻貝を用いた文様には、その殻頂を押したもの(近畿後期後半縄文式土器)と、側面形を押したもの(近畿後期末縄文式土器)がある。前者は一見丸い凹みに見えるが、よく見ると凹みが螺旋形になっている。爪形文といえば、実際に人の爪の圧痕が土器面に残っていることもある。多くは土器面の調整の際の指先の押圧痕跡として残っているものであって、それは特に近畿地方前期末の縄文式土器に著しいが、同時期の土器にはまれに爪の圧痕で文様を構成したものがある。これに比べて指先で押圧を加えた指頭圧痕文は、先史土器にも土俗例にも広く認められる(西日本中期弥生式土器)。撚紐の押圧文も古今東西に通有な文様の一つである(『文』の項参照)。刺突文・押圧文は座右のものを押し付けさえすればできるからその施文原体は千差万別であり、また正体不明のものも多い。わかっているもので特殊なものを二、三紹介すると、ドイツ鉄器時代には女性用指輪を押し付けたものがあり、これは土器づくりが女性の手になったことの証拠としてあげられている。同じくドイツにはねじって縄状にした銅の腕輪を押し付け、撚紐押圧をまねたものもある。魚骨を押し付けたも(樺太先史土器)、動物の爪の圧痕をみるもの(ドイツ新石器時代)もある。文様を刻んだスタンプを押圧する文様も世界各地にみられる。織物・布類を土器表面に押し付けて文様とすることも多い。これには、土器成形の方法のうち型起としづくりと関連し、型からの離脱を容易にするために型に敷いたものが、結果として文様となったものと、意識的な文様とがありうるが、両者の識別は必ずしも明確に解明されてはいない(北ヨーロッパ新石器時代織文土器)。九州の晩期縄文式土器には各種の織物圧痕の土器がある。また東日本の弥生式土器には極めてまれに面状に押し付縄文と同様の効果を生んだ織文がある。土器の底に残る布目(東日本弥生式土器)は文様というより土器成形の敷物の痕である。これに比べて布を棒に巻き付けたものの圧痕文は明瞭な文様であ(近畿前期後半弥生式土器・関東後期弥生式土器・南九州土師器薩摩式)。(四)土器面上に回転しながら押し付ける手法としての文様は、同一部分が等間隔で反復出現することを特徴とし、その観察から施文原体を復元的に考えることができる。この種の文様としては撚紐や組紐を用いた文が代表的である。このほか彫刻した丸棒を用い回転型文がある。鋸歯・格子・楕円などを刻むことによってそれが突出した文様として現われ(早期縄文式土器)。ヨーロッパではローマ時よりひもよりひも代に、インドではグプタ朝にみられ、中国古代にもあり、北魏では複雑な唐草文をみる。現在アフリカでは縄文の回転押型文が盛んにみられるほか、籾を取り去った穀類の穂、文様の付いた金属製腕輪、周縁を鋸歯状にした円板などを回転押印する実例がある。以上掲げたものが明確な沈文といえるのに対し、特殊なものとして、磨研と同じ手法で箆先で文様を描くものがあり、中国考古学の用語を借りて暗文と呼んでいる。地に比べて光沢をもつことによって、地味ながら美しい効果をもっている。中国の戦国時代・漢代にみられるものがその典型であり、わが国では弥生式土器・土師器・瓦器などにみられる。
【浮文】浮文は土器面から多少とも突出する文様であって、土器本体に粘土を付加することによっ施すものが大多数を占める。付加する粘土の形状には粘土紐・円板状・塊状その他がある。粘土紐を用いて長い帯を形成する装飾は、隆起線文・突帯文(凸帯文)の名で呼ばれることが多い。短いものは棒状浮文と呼ばれる。突帯にはわずかに器面に付着する程度のものと、指先などでていねいに貼り付けたものとがある。また特殊な方法で施す突帯文としては、ケーキ上の生クリームの装飾法と同様、チューブから吹き出す手法をとったものがある(北海道オホーツク式土器)。突帯文のモチーフとしては土器に水平に一周するものが最も普通にみられる。そのほか縦に施すもの、突帯で曲線その他の文様を描くものなどもある。突帯には刻文を加えたもの(刻目文突帯)もある。
指頭の押圧を加えるもの(指頭圧痕文突帯)の中には粘土紐を指先で押え付けていきながら貼り付けたものもある(西日本中期弥生式土器)。粘土紐を貼り付けたのち、半蔵竹管の内側でその上に結節やC字型爪形文を施すことも多い。粘土を小円板にして貼り付けたものは円形浮文と呼ばれる。口縁部付近その他に一周させたり、数個一組で用いたりすることが多い(弥生式土器)。その面上に円形竹管文・刺突文を加えることも多い。
塊状の粘土を付加すると種々の突起が生じる。環状にして装飾的な把手とすることもある。さらに立体的に造形して数多くの粘土を付加するとその集合が量感を与える。火焰形土器を一典型とする中部・関東地方の中期縄文式土器には、この種の浮文が発達している点で、世界の新石器時代土器の中でもきわだっている。浮文の中にはまれに土器の内面から押し出すことによって外面に大きな突起や突出をつくるものもある(南アフリカ先史時代、ドイツ青銅器時代ラウジッツ文化)。
【一種の象嵌】浮文・沈文に関連するものとして、他の材料を土器面に嵌め込む一種の象嵌もまれにみられる。巻貝を直接焼成前の土器に押し込(宮城県縄文式時代前期大木3式)、焼成後の土偶にアスファルトで白瑪璃・硬玉を固定する(東北地方縄文式時代後晩期)、焼成後の土器に樹脂で貝を飾る(北ドイツ新石器時代)、角の小片を飾る(ドイツ新石器時代帯文土器)、黒色の土器に白樺の樹皮を三角形・鋸歯状などに切って、樺から抽出したタールで貼り付ける(スイス新石器時代)、黒鉛で黒くした土器の装飾として焼成前に施した沈線文に、焼成後紐・繊維束を(おそらく着色して嵌め込み木のピンで固定する(スイス青銅器時代火葬墓文化)などがある。またスイス・イタリア・フランスでは錫・鉛・青銅などを帯状に嵌め込んで直接樹脂を用いて固定する。最も手の込んだ例では、黒鉛で黒くした土器の沈線文様の部分に錫箔を文様の形に切り取って載せ、焼成の際の熱によって貼り付け、錫箔の下の沈線文様も見えるようになっている(スイス新石器時代)。
【塗彩彩文】土器の全面、あるいはその一部に顔料を用いて土器の地色以外の色を付けるのが塗彩であり、その顔料で文様を描くのが彩文である。
土器に色を付けるためには酸化鉄を多く含む素地を用いて赤くしたり、また焼成の際に燻べて黒くしたりする方法もあるが、これは塗彩には含まないで区別する。塗彩・彩文を技術的にみると、焼成後の土器に顔料を塗るものと、土器を焼成する前に顔料を塗り、これが焼成によって発色したものとに区別できる。例えば赤色塗彩(主として酸化鉄)は早期縄文式土器以来、赤色彩文は中期縄文式土器以来にみられ、また前期弥生式土器には赤色彩文がみられるが、これらはいずれも焼成後に施している。いっぽう焼成前に施した赤色塗彩彩文は、縄文式土器に稀有であって、中・後期の弥生式土器、および土師器には一般である。
海外の彩文土器にも焼成前に塗ったもの(中国・西南アジア・ウクライナ・東ヨーロッパの新石器時代―青銅器時代)と、焼成後に描いたもの(東ヨーロッパの新石器時代、中ヨーロッパ鉄器時代)がある。また彩文には土器表面の本来の地の上に直接顔料を塗る場合と、あらかじめ地塗りを行なってから顔料を塗る場合とがある。例えば中国新石器時代(仰韶文化)彩文土器は良質の赤焼土器であるが、古いものはじかに赤と黒で簡単な曲線文を、新しいものは白い地塗りの上に赤・紫・黒・茶などで複雑な曲線文を描いている。縄文式土器の焼成後塗彩(主として酸化鉄)は、低湿地埋まっていると、赤色部分の表面が膜をなして、一見漆状を呈する。しかし同じ土器が普通の遺跡から出土すると、赤色部分の表面は粉末状をなしており、容易に洗い落ちる。これは顔料を樹脂などと混ぜて塗彩した結果と考えられている。
先史土器の塗彩はこのように土中における保存状況によって差異を生ずることもある。しかし一般には世界的に、水の洗浄によって容易に落とせるかどうかによって、焼成前あるいは後の塗彩かを判定している。顔料の材料は有機質・無機質に大別できる。前者を用いる手法についてはアフリカの土俗例などによって具体的に知ることができる。樹皮・実などから液を採り、これを焼成前あるいは焼成直後の土器に塗るものが多い。焼成後樹液を混ぜた粘土を塗る例もある。さらに焼成後土器が冷えてから塗布する例、塗布と焼成とを何度か繰り返す例もある。これらの塗彩は多くの場赤・黒まれには白色に仕上げることを目的としているが、同時に防水性を強める役割を果たすことも多い。先史土器における有機質塗布の代表例としては、縄文式土器の漆塗りをあげることができる。東北地方の晩期亀が岡式土器には赤漆・黒漆の使用が報じられている。中には黒地に赤の彩文をみる例もある。普通の塗彩・彩文以外には黒色物質の塗布(近畿前期弥生式土器)があり、ま特殊なものとして、黒鉛による全面か一部の塗布、そして彩文がある。この塗布にも土器焼成前後の別があり、先史土器(ドイツ初期鉄器時代ラテーヌ文化)にも土俗例(アフリカ)にも焼成前後の例が共にみられる。
【顔料充填】特に黒色の土器には沈線文を目立たせるため、その中に焼成後白色・赤色の顔料を入れることがよく行なわれている(東ヨーロッパ・中ヨーロッパ新石器時代と鉄器時代、エジプト新石器時代・古王朝時代、アナトリア青銅器時代)。

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