漢作 大名物 京都 東本願寺藏
名稱
此茶入は玩貨名物記、古今名物類楽等に出でたる東門跡肩衝なるべしと云ふ、今回本鑑編集に際して新に之を本願寺肩衝と稱す。
寸法
高 貳寸八分
胴徑 貳寸參分五厘
口經 壹寸壹分
底徑 壹寸五分又壹寸四分
甑高 貳分五厘
肩幅 參分五厘又參分七厘
重量 參拾匁八分
附屬物
一蓋 一枚
一袋
古袋二つとも失せて、今新規なる袋二つあり
一袋箱 桐 白木 古袋の箱なり 書付如次
御肩衝袋 利休好 蓋なし貳
一挽家 黒塗 銀蝶つかび金具
袋 なめし革 長緒花色
(備考) 此革袋に附けたる緒の甚だ太くして且つ長きは首にかけて持ちあるくが爲めなりと云ふ。
一箱 桐 白木 書付張紙
肩衝
一添文 一通 金森宗和より順慶寺様あて
貴拜 江戸へ御供にて御座候やいかゝ
一昨日貴書忝候、他行不能御受候然は御ちや入之袋は、二日に持來申候、ふた迄も引かせ申候、御意に入荷申か不奉存候、千々萬々無、若し不入御意は、重而可申付候、茶入木形貳つ、一つ袋有、一つにふたあり、進上申候恐懼頓首。 (宗和花押)
三月五日 宗和
順慶寺樣
右の添文の箱 桐 白木 書付如次
肩衝御茶入 天明三癸卯 年七月
鶴首御茶人 奥より彼 仰出添置候事 右二つに添候金森宗和之文
雜記
肩衝 東門跡。 (玩貨名物記)
肩衝 唐物肩衝 大名物 東門跡。 (古今名物類楽)
傳來
玩貨名物記及古今名物類衆に、肩衝東門跡である者蓋し 茶入なるべしと云ふ、古來東本願寺の什物たり。明治初年東本願寺道具大賣立の際、此肩衝も亦賣却せられんとせしが、信徒相集り、其入札高値を調べて之を引取り、即座に本山に返納したりといふ。
實見記
大正九年五月十九日、京都市下京區七条東本願寺に於て實見す。
口作兩そぎ蛤刄にて粘り返し深からざれども、刄先手を切るやうにキツカアアリと尖り、瓶下張り肩先少しく面取り、腰張り、底板起こしにて、其縁に釉飛びあり。總體黒飴色にて、廻りに少しく青瑠璃色を現はし、處々に黃釉の景色あり、胴を続れる沈筋一部途切れたる所あり、此一筋の上下に釉切れあり、又裾土際にも同様釉切れあり、裾以下土朱泥色なり、内部口縁釉掛り、以下水釉の上に轆轤荒くり、底に鏡落ありて央稍窪めり、無疵にて景色面白く光澤麗しく、容姿整備したる茶入なり。