大慧宗果の法孫にあたる笑翁妙堪が、道友轅洲翁の古稀の寿を祝賀して彼に書き贈った偈頌。
珍貴な一軸である。
轅洲翁の人となりを喬松と盤石にたとえて讃歎し、その風貌と隠士的な生活を叙し、もし古人に比すれば老子こそふさわしいとし、その一層の長寿を祈って結びとしたものである。
格別に禅の宗旨を含蓄したものではなく、文字の意味がわかれば解釈もつきやすいものであるが、強いて通釈すれば「徂徠山の亭々とした老松が厳しい氷霜に堪えて久しく天空を摩しながら、翠色今も鮮やかであるのを、君はみたことがあるだろう。また終南山の石が長い歳月、雨に打たれ風に吹かれながらも少しも変わらず、いよいよ堅くますます白いことも、君はそらい知っているだろう。桃溪の溪北に隠棲しているわが友轅洲翁の高く清らかな風格と、変わらぬ志操とを兼備したその人となりは、まさにこの徂徠山の老松と終南山の盤石とが、互いに相依るのにも比すべきものである。(後略)」となる。
大慧には拙庵徳光と無用浄全の二人の法嗣があり、笑翁妙堪は無用の法嗣である。
明州慈溪の人で、諸山に歴住したのち北山景徳霊隠禅寺に住し、のち太白山天童景徳禅寺や育王山広利禅寺にも住し、南宋の淳祐年間(1241~152)に72歳で示寂した。
轅洲翁についてははっきりしないが、賀頌の内容からみて隠士のような生活をした人物らしい。
【付属物】外題―一溪宗什筆添状―大綱宗彦筆
【寸法】全体―縦115.0 横89.0 本紙縦26.5 横67.2