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鶴田 純久の章 お話
信楽矢筈口水指
信楽矢筈口水指

高さ19.2cm 口径18.0cm 底径17.0cm
 桃山時代後期の作と思われるもので。信楽矢筈口の典型的な作例であります。ことに土膚の景色はまことに美しく、正面ほのかに赤みをおびた土膚に薄く灰が降って、黒く焦げています。これとまったく同様の作振りのものが、有来新兵衛屋敷後(京都市中京区三条柳馬場東入ル)から出土しているのは興味深い。新兵衛は慶長年間に活躍した京都の町衆で、徳川家康と交わりがあり、古田織部とも親交があった数奇者で、二条の唐物屋であったと伝えられています。その屋敷後がらは志野や瀬戸黒。織部、備前なども出土していますので、おそらく茶陶の流通を図った町人であったと推測され、この種の信楽も彼の商品であったのではないかと考えられるが、新兵衛自身も作陶を試み、また好みの作を窯場に注文したものと推測される。しかし、新兵衛ものに関してはなお今後の考察を待ちたい。胴の上部と裾に段をつけ、□は矢筈口風にしています。備前にも同様のものがあるが、信楽の器形はより素直であります。見込に「シ」の印が箆彫りされていますが、新兵衛の手印であります。共蓋も赤く焼き締まっています。

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