やきものに記された焼造年号・使用者の雅号・製造者の名などを総称。
陰字を款といい陽字を識といいます。
中国の款識についてみると(日本の款識については「銘款」の項参照)、焼造年号は宋代に始まるというが今日宋代のものはほとんどまれであり、時として唐の年号である開元(713-41)年製の四字のあるものがありますが、これは清代康煕(1662-1722)に古銅器を模造した際もとの銅器に刻してある年号を共に模したもので、唐代のやきものではないようです。
『飲流斎説甕』『飼雅』などには、宋代のやきもので内府の二字のあるものあり、その書法が大観銭に似ているものもあると記されているか、遺品では元代の内府銘・枢府銘が最も古いです。
また政和(1111-7)年製の款あるものもあると記しているか真偽不明。
『景徳鎮陶録』巻五には「宋の景徳年間(1004-7)に焼造せしものの器底に景徳年製の四字を書せり」とありますが、その実物は今日では残っていないでしょう。
尾崎洵盛が実見した最も古い年款は、七官手と称される青磁鳳耳花瓶の底に北宋の元祐(1086-93)年製の銘があるもので、これに次ぐものは同じく青磁鳳耳花瓶の底に南宋の淳煕こ一七四i八九)年製の款があるもので、いずれも篆文の小角印を胎土に捺しその上に施釉したものであったといいます。
元代は官窯には枢府の二字を用い、民窯には器底に字のあるものは少なく、仮に字があっても施釉せず随意に刻してあり、やっと識別し得る程度のものであります。
たまに花文や継輸形を彫ったものもあります。
そして明代以後は款識も非常に多種多様にわたりました。
大体官窯は二重圏内に焼造年号を記してあるものといわれます。
各時代には年款の書体・風格に特色がありますから、後世の模造品は他の点がいかに巧みになっていても書風を正しく真似ることは極めて困難ですので、年款によってこれを看破することは容易だと信じられています。
しかしこのためには中国歴代書道の変遷に関する一般的知識、特に鑑識力の素養は欠くことができないようです。
款識の種類について文字でこれを区別すれば、漢語・満州語・西洋諸国語・チベット語・イスラム関係の語など種々あります。
書体からみれば篆書・楷書・宋朝体などがありますが、行・草書体は雑器以外には余りないようです。
款識の記法には捺印・彫刻・青花などがあり、また堆料款と称して有色エナメルで焼き付けたものもあります。
款識の位置は普通器底でありますが、時に明代万暦(1573-1619)の中等品のように口辺外側に記するものもあります。
また脚の高いものは内側に記すものもあり、まれには器の内部に記したものもあり、永楽圧手盃のように獅子の玩ぶ毬を記したものもあります。
康煕年間には数十年にわたり年款記入を禁じましたので、康煕年製の年款のあるものはその初期および末期のものに限られ比較的少数であります。
その中期のものは官窯であっても年款を記さないようです。
あるいは木の葉などの模様を描いたものがあります。
年号以外に堂名・斎名などを記したものは、皆当時の帝室・親王家・大官・富豪などか自家用として焼造させたもので、ほとんどが精美なものであります。
乾暢斎・中和堂・静鏡養和敬慎諸堂・拙存斎・紹聞堂・敬畏堂・正誼書屋・寧静寧晋徳誠諸斎・慎徳堂・植本堂・有恒堂など枚挙するにいとまないようです。
以上は尾崎洵盛の説に従いました。
なお『飲流斎説甕』第六に款識のことが詳しく説かれています。