土器焼成法 どきしょうせいほう

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鶴田 純久の章 お話

【土器の乾燥】土器の乾燥には、成形工程におけ乾燥と、成形後の乾燥とがある。成形工程では底部と体部、器体下半部と上半部、屈曲部分の上下などを連続的につくらず、いったん作業を中止して、上に乗る部分の重さに耐えるまで乾燥させることがしばしば行なわれる。この中断は数時間のこともあり、二、三日のこともある(アフリカ土俗例)。乾燥に当たって、仕上がった部分の上端部のみを濡れた布で包んで湿らせておき、次の素地との接着を計ることもある(アメリカ土俗例)。大型土器を同時に平行して十個以上つくり、第一の土器の底の上に最下段の粘土の帯を積み、次に第二・第三・第四の土器の最下段の粘土帯を積み、第一の土器に戻って第二粘土帯を積む・・・・・・という工程をくり返すことによって、待ち時間を無駄にしない土器づくりもある(ギリシア土俗例)。成形が完了すると十分な乾燥が行なわれる。室内・戸外で日陰干しする場合、日光に当てて乾かす場合、まず日陰干ししたあと日光で乾かす場合などがあるが、乾燥に要する時間は場所・季節によってさまざまであり、概して一日以上数日の時間を必要としている。しかし熱帯アフリカでは朝つくった土器を日光で乾燥して夕方には焼成する例もある。混和材の少ない場合は概して室内や戸外の日陰干しによってゆっくりと乾かしている。いっぽう混和材を多量に入れた場合には日光によって短時間で乾燥化する実例が多い。このようにして乾燥を行なったうえ、焼成に先立って、ひと当たり火を当てるなどして火熱で乾燥を仕上げることもある。イギリスでは中世にこの乾燥仕上げを目的とした竈を使用した例がある。形装飾もすべて完成し、乾燥も終わって焼き上げかまどるばかりになったものを陶芸家は生素地と呼んでいるが、考古学では親しまれていない。ここでは便宜的に焼成前の土器と呼ぶことにする。なお土俗例には乾燥しただけで焼成していないまま容器として用いているものもある。これは単に土器と呼ぶべきではあるまい。
【燃料】土器焼成の燃料には多くの種類がある。
例えばアフリカでは木の枝・幹・葉・藁・草・草食動物の糞・木炭などを用いる。薬草などは火力が強いがすぐに燃え尽きる。いっぽう草食動物の糞は、保温がよいという利点がある。
【平地焼成・凹地焼成】土器焼成のための施設としては各種の窯がある。しかし窯なしに焼成することも非常に多い。わが国の縄文式土器・弥生式土器土師器も窯を用いていない。窯なしの土器焼成には平らな地面での焼成と穴の中での焼成とがある。平地焼成では直接地面に土器を置くことは珍しく、燃料を下に置くことが普通である。焼成済みの土器を下敷にすることもある。一回の焼成は数個から十数個数十個、時には二、三百個を焼くこともある。焼成のための土器は口縁部を上に底部を下に置く場合、この逆の場合、横積みの場合などがある。土器と土器とを直接積み重ねる、間に土器片などを挟む、燃料と土器とを交互に積み重ねるなど種々の場合がある。考古学資料では熱残留磁気の測定によって、焼成の際の土器の置き方を判定できることがある。浅い土器、口縁部の広い土器の焼成に関しては問題ないが、頸部の締まった深い土器の焼成では、土器の内外の温度の差が著しいことによって焼成中に破れるこでとがある。これに対しては土器の内部に薬を詰めたり、深い土器だけ別にして弱火で焼成したりする工夫もある。弥生式土器の器台や埴輪の透し穴は、内外の温度を等しくするための目的に適っている。この目的であけた器体の穴を焼成後ふさぐこと(アフリカ土俗例)もある。平地焼きでは積み上げた土器の上を、すっかり燃料で包み込んで焼くのが常である。焼成時間は一時間以内で終わる場合から数十時間に達する場合まで、焼き上げる土器の量や焼成方法によっていろいろである。一般に多量の土器を焼く場合は、火熱が平均して行き渡りにくい。そこで燃料が早く燃え尽きないように、そして熱がまんべんなく伝わるように積み上げた燃料の上に草や土などを覆うことが多い。径一~数メートルの範囲の地面を数十センチの深さに掘り凹めて、燃料と土器とを積み重ねて焼成する方法もよく行なわれる。凹地焼成には突然の風で火熱が急に強まることを防ぐために周囲を石で囲んだり、風を送る設備を備える(アフリカ土俗例)など、平地における焼成に比べてやや進んだ構造をもつものもある。さらに進んだものとしては、天井のない円筒形の壁を囲み、焚口を備えたものがある。燃料と土器とを交互に積み重ねて焼成する(アフリカ土俗例)が、これを窯と呼べるかどうかは疑問である。
【窯】窯には、底から火を燃やして上に並べた土器を焼く「垂直焰窯」(西南アジア・中国新石器時代の彩文土器)と、焰が焚口から煙道まで横または斜めに走って窯に並べた土器を焼く「水平焰窯」とがある。須恵器の窯は後者に属する。最近まで考古学では須恵器の窯を「登窯」と呼んできたが、現在では「窖窯」という名称に改めるようになった。楽【焼成と土器の色調】焼成の方法は土器の色を決定することが多い。素地に鉄分を含むと焼成によって酸化第二鉄が生じ、赤色になる。また二次粘土の中には有機質を含んでいるから、これが燃え尽きると明るい色になる。低い温度で焼成を終わると、鉄分の酸化が不十分で、また有機質が暗い色のまま残っている。酸化焰、すなわち酸素を十分に供給して焼成すると明るい色に仕上がるが、一酸化炭素の多い焰、すなわち還元焰で焼成すると、鉄分が酸化第一鉄に変わって暗い色になる。
相異なる土器片A・Bを比較し、Aが芯まで赤く焼けておりBの芯が黒いと、AがBに比べて焼成がよかったと判断していることが多い。しかし同じ粘土に砂粒を混和したものCと、砂を混ぜないものDとを一緒に焼成すると、より多孔質なCはより緻密なDよりも早く芯まで赤くなる。胎土の質の差を考慮に入れることなく焼成の良し悪しを比較することは意味がない。このほか土器面に炭素を吸着させる「いぶし」の手法によって、土器黒色にしたものが世界各地にある。焼成の最終段階に窯内でいぶす場合、焼成直後の熱い土器を板の上に伏せたり、籾殻・葉などの堆積の中に入れたり油を塗ったりして燃やしていぶす場合があり、いずれも多孔質な面を緻密にする効果がある。これらの土器は前もって十分に磨研して効果を高めていることが多い。アフリカ先史時代―古王朝時代の黒縁(ブラック・トップ)土器は、口縁部付近のみが黒く以下は赤い。これについては土器を灰の中に伏せて底部側だけを焰に当てて焼いたためという説が今なお残っているが、やはり焼成直後のいぶし焼きとみるのが正しいだろう。
わが国の黒色土器は焼成直後のいぶしによるもの、瓦器は焼成の最終段階に窯内でいぶしたことによるものと考えられる。焼成に要する時間は短くて一〇~三〇分(アフリカメンデ族)、長くて四八時間(アフリカダロロ族)で一概にいえない。
焼成後の処理も一様にはいえないが、多数の土器を一度に焼く場合は、損傷を少なくするため土器が十分に冷えきってから取り出す事例が多く、少数の場合は熱いうちに取り出すことも多い。この場合は棒を土器に突込んで取り出す(アメリカ土俗例)などの方法をとっている。弥生式土器には相対する二方、あるいはいずれか一方に炭素が吸着して斑状の黒色部分が残っている。熱いうちに板などに挟んで取り出した結果と考えている。

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