茶人・小堀遠州（こぼりえんしゅう）,小堀正一（まさかず）
近江小室藩主（１万２千石）で江戸初期の大名茶人。近江の国に生まれます。幼少の頃より父新介正次の英才教育を受け、千利休、古田織部と続いた茶道の本流を受け継ぎ、徳川将軍家の茶道指南役となります。慶長１３年（１６０８）駿府城作事奉行をつとめ、その功により諸太夫従五位下遠江守に叙せられ、これより「遠州」と呼ばれます。
生涯に４００回あまりの茶会を開き、招かれた人々は大名・公家・旗本・町人などあらゆる階層に、延べ人数は２０００人に及びます。書画、和歌にもすぐれ、王朝文化の理念と茶道を結びつけ、「綺麗さび」という幽玄・有心の茶道を創り上げました。
遠州は、後水尾天皇をはじめとする寛永文化サロンの中心人物となり、また作事奉行として桂離宮、仙洞御所、二条城、名古屋城などの建築・造園にも才能を発揮しました。
大徳寺孤篷庵、南禅寺金地院などは、代表的な庭園であります。
美術工芸においては「中興名物」の選定や、高取・丹波・信楽・伊賀・志戸呂など国焼の茶陶の指導にも偉大な足跡を残しています。また、中国、朝鮮、オランダなどの海外への茶陶の注文にも力を注ぎました。
豊臣から徳川へという激動の時代を生き抜き、日本の美の系譜を再構築し、新たに近世初頭の明るい息吹と瀟洒を極める美意識を生んだ遠州は平和な時代へ向けて基礎を築いたといえます。
小堀遠州 こぼりえんしゅう
茶人。遠州流の祖。1579年（天正七）生まれ。
名は政一、初名作介。春屋・江月両和尚に親炙し、宗甫大有・孤篷庵と号した。従五位下遠江守に任ぜられたので、遠州または尊んでは遠州公と呼ばれる。大和郡山城主豊臣秀長の臣小堀正次の長男として近江国坂田郡小堀（滋賀県長浜市小堀町）に生まれた。1604年（慶長九）26歳の時、父の遺領備中（岡山県）松山城一万二千石を継ぎ、30歳には遠江守に任官。1619年（元和五）備中の領知を近江国浅井郡小室（東浅井郡浅井町小室）に移封され、1623年（同九）京都伏見奉行任官、以後二十四年在職した。20歳から伏見城・御陽成院・駿府城の作事奉行を命ぜられ、壮年と共に内裏の造営、仙洞御所の作庭、二条城・大阪城水口茶屋・江戸城西之丸・品川御殿・東海寺・南禅寺などの造営を主管し、また桂離宮も遠州の作とされ、数寄屋には金地院八竜光院密庵席・孤篷庵忘筌席その他の造がある。また能吏として伏見奉行のかたわら播磨国姫路竜野（兵庫県姫路市竜野町）支配、紀州侯頼宣の政治顧問、五畿内検断などの出役が十回にも及んでいる。晩年64歳から江戸詰めを命ぜられ滞留四年、古田織部のあとを継いで将軍家の茶道師範としてもっぱら家光のお相手をつとめ、命をもって品川林中に御殿と茶亭をつくり、ま東海寺の数寄屋をもつくった。1645年（正保二）67歳で暇を賜わり、伏見屋敷に帰りしばらく私の時間を得て、自ら好んだ成趣院・転合庵・松翠亭などで茶会を楽しんだ。遠州は茶を古田織部に受け、その師弟関係は18歳頃からで、親交二十年にも及んだようで、『慶長御書』な織部からの聞き書がある。遠州の茶はその立場上から武門式正の風と公家王朝風を合わせたいわゆる「綺麗さび」で、佗茶小座敷だけではなく大名の社交・文化の場として書院・鎖の間の明るい気分を加え、その道具も多く整正優美な格式をもつものを好んだ。遠州の教養としては早くから和歌を木下長嘯子・冷泉為満に学び、『宗甫公旅日記』などの紀行文も残っている。禅は春屋宗園禅師に参じて大有の道称を授けられ、また書においては定家風を尊び、近衛応山・松花堂昭乗と共に寛永の三筆の一人に数えられている。遠州と陶器については、その数多い収集と鑑識にかかるもの＜ysf_08767.txt＞が後世東山時代の大名物に対して中興名物の名で呼ばれたこと、茶入その他の銘に『古今集』以下の勅撰和歌集からとった優美な歌銘を選んだこと、器物に結構な袋と挽家なる外装を考案し、ま塗物箱を用いてこれに金粉で装飾的散らし書を施すなど、茶道具に新しい骨董的値打ちを付加したこと、いわゆる「遠州七窯」というように国内諸窯に好みを製作させたこと、朝鮮釜山窯に御本をつかわして新しい茶器を焼かせたこと、切形をもって中国へ注文して染付・祥瑞などの新作を好んだと推定されることなどである。1647年（正保四）2月6日没、69歳。辞世「きのふといひふとくらしてなすこともなき身のゆめのさむあけぼの」。遠州は大宗匠として茶道史上村田珠光・武野紹鷗・千利休・古田織部に次ぐ存在で、特に将軍家の権威を背景とするものであったが、やがてその伝統は永く遠州流として残った。弟子松花堂昭乗・黒田正玄・山田大有・佐久間直勝・大森村田一斎らがおり、大膳正之（宗慶）・権十郎政尹（蓬雪）はその息子である。
