唐物 京都 西本願寺藏
名稱
万寶全書に
常陸帶 是は正月十日、鹿島の神事に帶をかくる事あり、其如く此茶入に帶有るに由てぞらへて常陸帯と云ふ。
本朝陶器攷證にも右の説を掲げなほ更に次の如き記事あり。
俊頼抄に云 常陸鹿島明神の祭の日、女の懸想人のあまたある名ども、布の帯に書きつけて、神前におくなり、すべき男の名書きたるは、おのづから裏かへるなり、女さもと思ふ男なれば、やがてしたしくなると云々、其事を常陸帶と云ふ、此心にてよめる、
東路のみちのはてなる常陸帶 かことはかりも逢はんとそおもふ
茶道正傳集には
常陸帶の茶入は細長き茶入に腰に筋あるを常陸帶といふとの事は僻説なり、腰帯の切れて後へ返り 常陸帶返しといふ事を、佐久間不干の言はれし也、其間違ひ心得損うて、細長き茶入に腰に筋あるを常陸帶といふ、茶入の名にてなしと、細川三齋物語りのよし。
と記せり。
寸法
高 貳寸貳厘
胴徑 寸八分七厘
口徑 九分五厘
底徑 八分
甑高 壹分五厘
肩幅 壹分七厘
重量 拾四匁
附屬物
一蓋 一枚
一袋 二つ
本願寺切 裏紋どんす 緒つがり紫
（白地小牡丹金襴）
花色地唐賓墨蝶模様純子 裏玉虫 緒つがり紫
（山椒純子）
一挽家 桑 蓋甲
常陸帶 書付文如上人筆
袋 波に紅葉模様御装束切 裏玉虫 緒つがり茶
一內箱 春慶塗 書付金粉 板横目に認む
常陸帶 文如上人筆
一外箱 桐 白木 書付文如上人
唐物茶入 常陸帶
蓋裏書付如次
此茶入者最初京極宰相高次卿所持也、豊臣太閤御所望ニ付被獻之其後東照宮被進之器也卜云々。
於駿府府中拜領 秀吉御銘之由
悠々子詰之
（備考） 悠々子は文如上人の號なり
一添盆 唐物朱香盆
竪六寸二分 横六寸三分 底凹ミ方三寸三分
箱 桐 白木 書付如次
組物 唐物朱香盆
袋 茶地石疊純子 裏紋どんす 緒つがり茶
雜記
常陸帶 唐物なり。他の唐物とは時代同じからず、之を國司茄子に比するに、藥立同時代と雖も時代劣りたり。 （不昧公著瀬戸陶器濫觴）
常陸帶茶入唐物 長二寸五分、廻五寸四分、口八分半、底八分半、是は正月十日、鹿島の神事に神前に帶をかくる事有り、その如く此茶入に帶あるに由てなぞらへて、ひたち帶と云ふ、世に類多きき者なり。然れ其常陸帶の中に小肩衝と云ふ物ありて、口傅なり、持得る時は價高直なり、功者に尋ぬべし。土淺黄色、口造りひねり返し尋常なり、糸切ほそく見事なり、下藥薄墨色なり、上藥は薄黒藥なり、又薄黄藥の流れ一筋細くあり。手鑑に云ふ、小形のちいさきを云ふ、糸切あり、代壹雨に過ぎず（茶入圖あり）。 （万寶全書）
常陸帶 唐物に常陸帶といふは、藤四郎作なり、唐物竈の内山神へ供る神器なり（茶入圖あり）。 （名器錄）
常陸帶 元祖藤四郎日本尾州人瓶子竈にて大瀬戸口兀此二つを焼、其後唐渡後、唐土を持來て焼を常陸帶と云、是は如何。常陸帶は東山時代渡る也、入道法名春慶。常陸帶、帶能立つ故、古歌にて名づく「東路のみちのはてなる常陸帶かこと斗りもあはんと思ふ」。正月十日鹿島の神事の時帶を持行き縁をむすぶと云ふ事より。 （幕庵文庫甲第五號）
常陸帶といふ唐物あり、是を唐物と申習し候へども、藤四郎作にて、山神へ備へる器なり、藤四郎一窯毎に山神へ備へればなり（茶入圖あり）。 （茶入聞見錄）
常陸帶 唐にて歯骨を入れて埋むるものなり、腰に帶筋一つも二つもある故なり、代なし、常陸の因縁さまざま歌書に出でたり。 （互室集）
常陸帶 本願寺名物、唐物茶入、銘常陸帶、豐公銘之。京極宰相高大御所持、豊公所持、後東照宮傳來、於駿河受領。右傳來文如上人御箱書付、高二寸、口徑九分、胴徑一寸八分五厘。袋白地本願寺、山椒純子（茶入附属物の寫眞あり）。 （西本願寺大谷家御藏品入札目錄）
常陸帶といふは茶入の形にてはなし、いづれの茶入にても腰帶をいふ。
佐久間不干の腰帯をひたちおび通しなど申されしを聞たがへて、細長き茶入の腰にすぢあるを常陸帶といふ、茶入の名にてはなしと、三鷹公物語のよし、 （茶事集覽）
大正十年七月廿一日於飛雲閣憶昔庵
文如上人年回茶事 主 大谷尊由師
一掛物 俊成卿
夏日同賦以暑爲徳の詩懐紙
一茶入 名物常陸帶 袋 白地本願寺古金襴
一茶碗 名物一文字吳器
（大正 辛酉茶道記）
傳來
此茶入の西本願寺に傅はりたる来歴は前揭文如上人の外箱蓋裏の書付に詳かなり、如上人は光輝といひ、西本願寺第十八世の法主なり。明治年間一度入札賣却に附せられしが、信徒酸金して之を買取り、直に西本願寺に獻納せりと云ふ。
實見記
大正九年五月十九日、京都市下京區堀川西本願寺に於て實見す。
口作薄く括り返し深く、甑廻り稍窪み肩キッカリと衝き、肩先より腰廻りまで少しく張り、腰以下大に窄まりて白鼠色の土を見せ、絲切或は荒く或は細かく、其中にヒッチキあり、又縁廻りに釉飛びあり、中央に小さきホツレあり、紫乃至黒飴色の上に金氣出で景色變化名狀す可らず、口縁一部繕ひあり、胴に太き沈筋一線を廻らし、腰廻りにボッボツと小さきヒッツキあり、内部口縁釉掛り、以下素土の上に釉飛び數點あり、轆轤目細かく続り底中央渦状を成して、少し窪めり、作行精巧言はん方なく釉濃艶にして容姿亦極めて優美なる茶入なり。
