建築物の特定空間に用いられる陶磁器壁面あるいは陶磁器造形物を指す新造語。
陶壁がこれまでのタイル・モザイク壁画またはタイルの上に描かれた絵画と相違するのは、陶磁器そのものの特性、釉面の諸効果、すなわち陶磁器のあらゆる造形力を駆使して建築の特定空間を緊密に構築しようとするところにあります。
もちろん建築と一体化するといっても決して物理的側面を指すものではなく、主として精神的側面を支えるものということができます。
これまでの建築陶器も決して美的な効果が求められなかったとはいえませんが、どちらかといえば物理的・化学的有用性に重点があったのに対し、新しい陶壁はまさに建築における芸術的有用性を陶磁器により表現しようとするものであります。
傾向的には機能主義的な近代建築が、大間不在の息苦しさを脱するため、土と焔と大間の手による精神的効果を求めたということもできましょう。
沿革としては、1933、4年にわたり加藤唐九郎氏が東京青山(港区)の一私邸に試みたのをはじめとすべきですが、戦前には広く発展する社会的な背景がなかりました。
戦後においても、特殊な建造物に陶板あるいは陶壁画について二、三の試みがなされましたが、新しい概念としての陶壁が社会的に関心をもたれた端緒は、1963年(同三八)11月落成した日蓮正宗大石寺大客殿に画家加山又造と加藤唐九郎氏が共同制作したもの(縦3m・横21m)と、1967年(同四二)9月の第五回朝日陶芸展に同じく加藤唐九郎氏が出品した縦3m・横8mの陶壁でありました。
これを契機に一部の建築家・施主に強い要求が生まれ、多くの陶芸家・クラフトデザイナ一がこの分野に進出するようになりました。
1972年(同四七)5月東京西新橋(港区)のビル八階建・高さ33mの全面をI個につくり上げた加藤唐九郎氏作の外装陶壁は、このつくり方では現在その大きさにおいて世界第一といわれています。
また陶壁という語そのものも加藤唐九郎氏によって初めて称えられ、従来の壁画との相異性とその意義も明らかにされました。
(小出種彦)