成形によってほぼ形が成った土器を仕上げるのが調整である。整形とも書くが成形と耳で区別できないのが不便である。
【調整の種類】調整には(一)最終的に形態の細部を決定する。(二)器壁を薄くする。(三)器面を平滑にする。(四)気孔をふさぐことによって液体の浸透を弱めるなど実用の目的がある。(四)はしばしば器面を美しく仕上げるという観賞的目的をも満たすことになる。その具体的な方法には撫で削る・ひっかく磨く・塗るなどの手法がある。
【ヨコナデ調整】土器の口縁部などを指先・布・皮・葉などで横方向に撫でると、水平に多数重な微細線から成る調整痕を生じる。このヨコナデ調整によって器表付近の砂粒は沈み、表面は平滑になる。また布・皮などの当て方、力の入れ方などによって、器表にはこまかい起伏が生じるから、口縁部の端をまるく仕上げたり、凹ましたりなどし、これによって細部の形態が決まる。土俗例には、大型土器の製作に、回転運動をまったく利用することなしに、陶工の方が土器の周囲を廻ることによってヨコナデ調整を施す実例も知られている。小型の土器についても手中でそれを廻すことによってヨコナデ調整を施すこともできる。しかし回転台上でその回転運動を利用して施すことも多い。これらのヨコナデ調整と轆轤上での調整痕との区別は特に破片などでは必ずしも明確ではない。かつて弥生式土器のヨコナデ調整が轆轤目と混同されて、その製作に轆轤の使用が想定された所以である。
【削り調整】器壁を薄くする削り調整には、さら(一)器表の凹凸をなくして平滑にする、(二)土器の下半部の器壁をあらかじめ上半の重さを耐えうるように完成時より厚めにつくっておき、乾燥が進んだ段階で望みの薄さにまで削る(畿内の中弥生式土器では外面を、中国・四国の同時期の土器では内面を削る。器壁が薄いことが望まれる煮焚き用の土器に多い)、(三)土器全体の器壁を完成時よりも厚くつくっておき、乾燥後これを削古墳時代土師器の内面)、(四)轆轤で成形し、箆で切り離したあと、土器を轆轤上に伏せてその切り離し痕跡を削りとって整える(須恵器)、(五)面と面との間に明確な稜線を形成するような面取りを行なう(奈良・平安時代土師器高杯脚台の多角形をなす柱状部分)などの種類がある。削り調整は土器がかなり乾燥した段階で加える。これによって器表付近の砂粒は移動して尾を引き、あるものは脱落する。なお弥生式土器・土師器の削り面は細長い小さな面によって成り立っている<ysf_09100_10.txt>ことが多いので、箆状工具の使用を考え箆削りと呼んでいる。削り調整の痕跡は、磨研などあとに加える調整によって消されることも多い。煮沸に用いる土器の底などを意図的に削り調整のまま残し、を付着させ加熱の一助とする土俗例もある。
【条痕・刷毛目】器面の凹凸を除くことは削り調整によっても果たされるが、このほかに平滑化を目的として他の工具で器面をひっかく調整もある。縄文式土器の条痕、弥生式土器・土師器の刷毛目もその例である。条痕は貝殻を用いて土器面をひっかく調整であって、アカガイ・サルボオな背に条筋のある二枚貝の口の部分を当てて引っぱったもの(各地では早期・西日本晩期)と、ヘナタリなど巻貝の側面を当てて横に引っぱったも(西日本後期一晩期初頭)とがある。いずれも平行する溝を生じるが、後者には溝の中にさらに細線が走る。日本考古学で刷毛目と呼ぶのは陶芸家の呼ぶ刷毛目とはまったく違うものなので注意を要する。これは平行する多数の細線からなる調整痕であって、最近の研究で工具が木の板であることが判明した。細線は板の割った面の木目の軌跡であって、広葉樹・針葉樹のいずれを用いたかも区別できる。なお須恵器の器面調整でカキメと呼ぶのは、土器を回転しながら同じこの板片を当てて調整したものである。縄文式土器の縄文を器面調整とする解釈もあるが、器面を十分に平滑化することなしには整った縄文を施すことはできない。
【磨き調整】磨研によって器表を緻密にするのが調整である。土器の乾燥がかなり進んだ段階に施すものであって、しばしば光沢を生じる。この調整によって気孔をふさぎ、器表付近の砂粒は沈む。ていねいに行なうと器表に緻密な薄層を生じ、後述のスリップとの識別がむずかしいことも多い。磨研には丸石・竹・骨など平滑な光沢をもつもので行なう。弥生式土器・土師器では磨研面が細長い小さな面から成り立っているので、ヘラミガキの名で呼んでいる。このほか特殊なものとして数珠玉を首飾状に多数連ねたもので磨く方法(アフリカ土俗例)もある。磨研した面は焼成時の後半、あるいは焼成後に炭素が吸収する場合、他の部分に比べて艶がいっそう増す効果を生む。なお磨研にはむしろ美しく磨き上げることを主目的としたとみられるものもある。例えば金属容器を模倣し、その光沢を忠実に再現する意図で特にていねいに磨いたものがある。
【スリップ】器表に泥状の粘土を覆う手法をスリップあるいはエンゴーベと呼ぶ。わが国では化粧(粘土ともいう。中国で陶衣と呼ぶのはいかにもふさわしい名称である。スリップには土器本体に使用した粘土を水で薄めて用いるほか、顔料を混ぜて用いることもある。この場合はスリップといわないことが多い。スリップを掛けると土器の表面は緻密な層に覆われ、砂粒は目立たない。しか先述のようにていねいな磨き調整との識別は困難なことが多い。両者の識別がむずかしいことを認め、研のことを物理的スリップ(mechanicalslip)と呼ぶ学者もいる。概して西洋の先史土器の記述ではスリップという表現が頻繁に登場する。
中近東では最古の段階の精製土器からスリップの使用を指摘している。中国でも仰韶文化の土器からスリップを認めている。いっぽう日本考古学では、多くの学者が縄文式土器・弥生式土器・土師器などにスリップという表現を差し控えている。
しかし北九州の中期弥生式土器(須玖式)にはスリップの使用を想定できるものもある。なお調整からやや離れるが、表面を緻密化する目的で焼成時の終わり、あるいは焼成後に土器をいぶして炭素を吸着させて気孔を埋める方法は、世界各地に認められ、わが国の黒色土器・瓦器などもその実例としてあげられる。このほか焼成前、あるいは焼成後の器面に黒鉛を塗る、瀝青を塗る(いずれもヨーロッパ鉄器時代ハルシュタット文化)とい手法も知られている。