伝藤原行成筆。
『深養父集』断簡(手鑑『碧玉』)。
平安の三色紙中最も優婉な女性的筆致で書写された色紙である。
元来冊子本とはいえ、実に整った表現の中に見事な空間構成がうかがえる。
「あききりの」色紙の散らし書にみる構成形式をさらに徹底したのがこの色紙である。
本紙に欠損や擦れのために文字の不鮮明なものが多い中で、この一葉は特に保存状態が完好で、墨色もよく、筆線に張りが顕著で、墨つぎのアクセントと相まって「ひとをおもふ心」が無限の「雲井」にひろがっていくような、弾みと情念を感じさせるものがある。
なお校合は藤原定家によって行なわれ、校点はそのときのもの。
【伝来】古筆家
【寸法】本紙縦14.2 横11.7