


漢作 大名物 伯爵 前田利爲氏藏
名稱
侯館
茶入の底にある七夕の二字書 相阿彌筆なりと云ひ東山殿飾之記に針屋新左衛門小壺一茄七夕大永二年七月云々とあれば、此銘は東山時代に起こりしならん。庵文庫甲第九號の茶書に「七夕芋珠光時代の名也、茶に縁をむすぶ事に候とや」とあれば、當時他の茶器にも七夕の名を冠せし者ありしが如し。或る茶書に「小堀遠州松花堂所持の芋の子茶入を愛し、かいる銘器は年に一度出されたし、我毎年一度上洛すれば、其都度此芋の子にて茶たまはるべしといひ、年に一度逢ふといふより、其芋の子茶入を七夕と銘せりといふ」とあり、是れ七夕の名に關する一説なれども、此茄子茶入は何に困りて此名を負ひしや、今姑く疑を闕くべし。
寸法
高 貳寸五厘
胴徑 壹寸九分五厘
口徑 八分五厘
底徑 九分
甑高 壹分五厘
肩幅 壹分八厘
重量 拾五匁
附屬物
一蓋 一枚 窠
一御物袋 黄絹 緒つがり遠州茶
一袋 一つ
廣東 緒つがり紫
大破 包紙に入れて保存
一挽家 紫檀
蓋甲 織女 二重彫 綠靑入
蓋裏 茄子 二重彫
袋 古渡りコンテレキ 裏肩縞唐棧 緒つがり萌黃
一內箱 桐 白木 書付張紙
七夕茄子 書付遠州
漢七夕茄子(朱書) 橘屋宗玄上ル昔ハ東山殿御所持之由其他由來有之
一外箱 桐 白木 新
七夕茄子
雜記
針屋新左衛門小壺一茄七夕 大永二年七月二十四日折紙註なり。 (相阿彌東山殿飾之記、茶器名物圖彙)
七夕茄子 唐物 松平加賀守所持。 元文五十二月十日借覽高二寸五リン胴一寸九分八リン、口八分七厘九厘の所もあり、甑二分肩一寸二分五厘底八分五厘、底如此。七夕」墨にて書有。蓋一枚寞袋一かんとう 裏萠黄海氣 緒つがり紫、挽家くわりん「織女」如此彫有、蓋裏「茄子」如此彫有。袋五色嶋かなきん 裏しまかいき をつがりもえぎ、箱桐白木 七夕茄子、蓋裏「漢七夕茄子橘屋宗玄上ル昔ハ東山殿御所持之由其外由來有之」如此張札に書張有之(茶入圖り)。 (名物記)
七夕茄子 土鼠藥柿に見ゆる、上藥黒、付糸切逆、盆付内に七夕の二文字と花押あり、傅に筆者相阿彌とあり、置形垂れて底にかいる飛あり、置形左下に二ヶ所不正なるヒッツキあり。 (前田侯爵家道具帳)
七夕茄子 東山殿御所持の由。挽家紫檀 表 織女 裏 茄子、袋コンテレキ袋上かんとう白横筋入、上箱「七夕茄子」遠州。 (前田家御藏品下留)
傳來
東山傳來にて、針屋新左衛門其後橘屋宗玄所持、後加賀侯に獻すと云ふ。宗玄は通稱を長兵衛といひ、茶法及書道を小堀遠州に學び、常に親近して茶亭を預りたりと云ふ、其略傳續茶人花押藪に出づ。
實見記
大正八年十一月二十五日、東京市本鄉區本富士町前 爲候邸に於て實見す。
玉縁薄く括り返し淺く、口廻り少しく飯櫃なるを以て頗る雅致あり。總體薄紫地の上に黒釉にて景色あり、而して處々に煎餅膨れあり、胴に沈筋一線を繞らし、甑廻り半分黑釉濃く掛る、又胴筋以下に於て黒釉雙方より落合ひ、裾土内までなだれ掛りたる所あり、又裾廻りに二ヶ所相對してヒッツキあり、紫黑共釉色麗はしく、置形最も鮮明なり、裾以下朱泥色の土を見せ、絲切細かく、底縁にかけて釉飛びあり、又底内に少しく高きヒッツキ一ヶ所あり、七夕の二字の下に、横長き書判あるは、相阿彌直書付なりと云ふ。内部口緑釉掛り、其一なだれ胴中まで流れ掛り、轆轤目淺く繞り、底中央に至りて巴狀を成す、大體釉質頗る霜夜文琳に類し、景色も頗る相似たる者あり、蓋し同年代同手法の作なるべし。



