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鶴田 純久の章 お話

撚紐を施文原体として土器に施した文様。
押圧縄文・回転縄文・棒巻押圧繩文・棒巻回転縄文に大別できます。
この他縄文に関連するものとして擬似縄文・縄叩目などがあります。
押圧縄文(線状縄文)は、撚紐をそのまま土器面に押圧して付ける文様であって、古くは棒巻回転縄文と同様、撚糸文と呼ばれました。
一段の撚紐、すなわちこより状に撚りを与えた繊維束を本撚り合わせた撚紐を原体としたものが多いようです。
右撚り・左撚りを並べて押したり、渦巻き状において押したりするものもあります。
回転縄文は撚紐を土器面に回転しながら押捺して施す文様であります。
縄文の条が斜めに走ることが多いので、斜(行)縄文の名もあります。
また単に縄文と呼ばれることも多いようです。
最も普遍的な回転縄文は一段の撚紐を本撚り合わせることによってつくった二段の撚紐を用いたものであって、繩文の斜行する条が連続して並ぶ多数の独立単節斜縄文 した節によって成り立っています。
二段の撚紐をさらに撚り合わせた三段の撚紐を用いると、縄文の節がさらに二、三の節に分かれ(複節斜繩文)、一段の撚紐を用いると条の中には節がみえず繊維が走るのみである(無節斜縄文)。
これらは最も簡単な回転縄文の系列であって、このほか右撚り・左撚りの撚紐をさらに撚り合わせたり、撚紐を釉として別の撚紐を巻き付けるなど複雑な原体をつくることによって、相となる節の形状が異なるもの(異節斜縄文)、隣り合う条の形状が異なるもの(異条斜縄文)など多くの種類の回転縄文ができます。
このほか撚紐の端や途中に輪をつくったものを用いたり、撚紐の結び目を回転押捺したもの(結節縄文)もあります。
また撚紐ではありませんが、四条の組紐を用いたものも便宜上回転縄文に含めています。
右撚り・左撚りの撚紐をそれぞれ同じ方向に回転押印しますと、傾斜の異なる二種の斜縄文ができ、綾杉状を呈する(羽状縄文)。
この二本はあらかじめ連結して一本の原体にすることもあります。
また例えば右撚りの撚紐を上下にころがし、その隣に同じ撚紐を左右にころがす方法によっても一種の羽状縄文ができます。
回転縄文を施したのち、一線を画してその一方の縄文を磨り消すことによって、縄文の部分と空白の部分とを対照させるのが磨消耗文であります。
磨消縄文の名はあらかじめ線を引いたのち、その一方のみに縄文を施したものにも用いています。
棒巻押圧繩文(絡条帯圧痕文)とは、撚紐を釉にコイル状に巻き付けたものをそのまま押圧したものであるようで、これを回転押捺したのが縄巻回転縄文であります。
これは押圧縄文と同様、撚紐の側面圧痕を生じるので古くから撚糸文と呼ばれている0網目状撚糸文・木目状撚糸文・平織状撚糸文など多くの種類があります。
回転縄文・棒巻回転縄文の施文方向には、土器に対横位 して原体を縦において横方向に施すもの、原体を横に置いて縦方向に施すもの(縦位)の別があります。
両者は共に縄文の条が斜行します。
このほか原体を斜め方向に回転七て、縄文の条を垂直または水平にしたものもあります。
施文の際に器面が柔軟であったり撚紐を土器面に強く押し付けながらころがしますと、縄文の隣り合う条と条、節と節とは密着し、一見織物を押し付けたような形状を呈します。
いっぽう施文の際に器面がかなり乾燥していたり、軽く押しながら施文すると条間・節間に間隙が生じ、節は円くなります。
縄文には多くの種類かおりますが、千差万別の特殊な縄文が発達しだのは、主として関東北の前期縄文式土器においてであって、その他は特定の時期・地方に限って特殊な縄文をみるのみであります。
二段の撚紐を用いた単節斜縄文が時期的にも全国的にも最も一般的な縄文であります。
西日本では後期末以後縄文は消滅しました。
いっぽう東日本では弥生式時代およびそれ以降になっても縄文を使用し続けました。
縄文の起原に関しては、最初から装飾として出発したとする説と、土器面を平滑化するために発生しのちに装飾文様となったとする説があるようで、後者を唱える人が多くいました。
しかし最近では縄文草創期の前半の土器が見出され、最初には押圧縄文が現れたことが明らかとなり、また撚紐を押圧しながらなかば回転して施す回転縄文の先駆形態として半転縄文が検出されるに及び、縄文装飾起原説が決定的となりました。
縄文は先史時代以来世界の各地にみられ、アフリカでは現在でも回転縄文を用いています。
しかし縄文が一文化の土器の文様を代表するものとなったのは、わが国の石器時代の縄文式土器と、中・北ヨーロッパにおける新石器時代後期の縄目土器(Schnurkeramik)においてであります。
しかしヨーロッパの縄目土器をはじめとして海外の縄文は押圧縄文が主流をなし、回転縄文は非常にまれであります。
わが国先史時代の縄文の特徴は回転縄文・棒巻回転縄文など回転する施文方法が著しく発達している点てあります。
擬似縄文は撚紐以外の原体で縄文を模倣した文様であります。
縄文式土器にはヘナタリなどの巻き貝を回転押捺したり、ハイガイのように背の肋条に突起のある貝を押し付けたりして縄文を模倣しています。
縄叩目は撚紐を巻き付けた板を用いて土器や瓦を叩き締めたものであって、一見したところ縄巻回転縄文と酷似しており、誤って同じ施文方法を考える人もあります。
アフリカにおける回転縄文の土俗例は十九世紀にすでにヨーロッパの学者が観察していましたが、ヨーロッパ先史時代には回転縄文がないため、考古学界では特に注意をひかえていました。
わが国の回転縄文は永らく織物などを押し付けたものと考えられていましたが、1931年(昭和六)山内清男によって初めて回転という施文方法が解明され、縄文式土器の編年的研究、すなわち年代的地方的秩序の樹立に大いに貢献しました。

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