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鶴田 純久の章 お話

大名物。唐物文琳茶入。
九鬼大隅守嘉隆が所持していたのでこの名があります。
口縁は丸く、捻り返しがなく、甑際が少し凹み、胴に沈筋が一線巡ぴ、裾以下に鼠色の土をみせ土中に指形が数々あるようで、糸切はこまかく中に引っ付き、または箆筋があって鮮明を欠き、底縁は少し円座状をなしています。
総体に栗色地に黒飴釉の景色が現われ、肩先その他に釉ぬけが点々とあるようで、甑廻りに黒釉が一面に掛かり胴紐の辺より黒釉が幅広く段々になだれ。
一ヵ所土中までなだれ掛かっているところがあります。
手取りは軽く作行はむっくりとして、裾廻りの黒釉の景色のおもしろいことはいいようもなく、形状・釉色ともに見事で微瑕もない完璧な茶入といえます。
九鬼嘉隆の所持であったがのち将軍秀忠に献じ、1635年(寛永二一)8月将軍家光がこれを堀田加賀守正盛に賜い以来同家に伝わったが、正陳の時代になり家政が大いに窮乏してこれを質入しました。
しかし分家佐倉藩主堀田正亮がこの事情を聞き大金を投じて請け出しただちに本家に返付しました。
のち1883年(明治一六)5月堀田正養から小松宮彰仁親王に献上されました。
(『玩貨名物記』『古名物記』『古今名物類聚』『堀田家家史』『新撰南山志』『大正名器鑑』)

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