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鶴田 純久の章 お話

Jar,two-colorglaze.Naraperiod,Japan.
正倉院蔵
高さ41.7㎝
 それまで、褐色の土師器や鼠色の須恵器を見なれていた奈良朝の人々の目に、わが国に請来された唐三彩やそれを模した奈良三彩がどれほど豪奢に映りましたか。唐三彩が七〇〇年前後に長安か洛陽に誕生してから二十数年後の七二九年には、奈良三彩壺が奈良奈良市にある小治田安万侶墓に納められているのです。これによっても、時を移さずしてわが国に請来され倣製されたことがわかりますし、目にもあやな色釉の器皿に瞠目した当時の富裕層のありさまが彷彿としてきます。
 現存する最も大きい奈良三彩であるこの瓶は、胴部六段と口頸部、高台の八段につぎあわせているところからみて、一気に水挽きされている唐三彩をそのまま写さずに、彼らのなし得る技術の限りで成形する方法をとっており、釉の賦彩も緑釉で全体に斜格子状の文様をあらわして、その余白を白釉で埋め、結果として唐三彩に近い装飾効果を得ているのです。これは奈良三彩の常法でした。口部はラッパ状にひらき、大きな撥形の高台をもったこの大瓶は調和のよい安定した姿をなしていますが、唐三彩の瓶に見る洗練された優雅な美しさより骨格のたしかな力感の強いものとなっています。これが両者の似て非なる所以です。しかもこの瓶の形式は唐三彩には祖型がなく、むしろペルシャのガラス器に近いものがあります。しかし奈良三彩大瓶の定形であったことは平城京跡、薬師寺西僧房跡をはじめとする数か所の出土例によっても判じられるのです。(矢部)

二彩 瓶

二彩 瓶
二彩 瓶

Two-color glazed ware: vase. 8th century. Height 41.7cm.
8世紀
高さ41.7cm 口径 18.5cm 胴径25.7cm 底径17.6cm
正倉院
 緑白二彩の大形の瓶で、胴部六段と口頸部 高台の八段に継ぎ合わせて成形し 口頸部と肩の接ぎ目に一段の突帯を繞らしています。
 口頸部に二条、肩に三条の沈線があり、高台は珍しく大小二重につくられています。このような器形は当時の日本の器物にはなく、肩の突帯といい、底部の二重高台といい、唐代の三彩水瓶や白磁瓶にみられるところであって、唐代陶磁の影響によってつくられたものと考えられます。釉文は緑釉で斜格子状に描き、空間に白釉を埋めたもので、白釉は口頸二段、胴部六段、高台一段、合計九段に千鳥状に配しています。全体に釉の熔け工合が悪く、とくに緑釉は濃淡がいちじるしく、黒胡麻状の釉ムラと、いわゆる「ニエ」 と呼ばれる小円孔が目立っています。
 なお、これよりわずか1cm低いだけの、形態 文様ともにまったく瓜二つの緑白二彩の瓶の破片が平城宮跡から出土しています。胎土釉調からみて、同時作かと考えられます。

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