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鶴田 純久の章 お話

成形を終えた生素地が十分に乾燥されますと、まず素焼をします。
素焼の目的は描画と施釉の準備として焼くのと、単に弱く焼き固めるために焼くのとがあります。
このように焼き固めて施釉しない器物をも素焼と呼びます。
施釉を要しない土器の類は、素焼のみもしくは素焼の火度を高めて締焼をして工程を終了します。
素焼とは素地だけを焼く場合を称しますが、陶器の場合にはこれを締焼と称します。
素焼はたいてい摂氏800~1100度の範囲で焼きますので、素地がまだ十分焼け締まるに至りませんが、陶器の締焼は相当に強く摂氏1100~1250度位までに焼き締めますので、単なる素焼と区別してこのように称するのであります。
陶器は初め素地を強く焼き締め、のち施釉して締焼よりも弱く焼くものでありますが、磁器は初め弱火度で素焼し、施釉後素地も釉薬も同時に強火度をもって焼きます。
すなわち素地が半熔となると共に釉薬も熔けるのであります。
素焼の焼成法は乾燥しただけの素地に初めて高熱を与えるものですから、極めて徐々に加熱し、急激な温度の上昇を避けなければならないようです。
さもなければ収縮の不同をきたして亀裂を生じ、あるいは歪みを生じます。
それゆえ徐々に熱を上げ、蒸発した水分を停滞させずに発散させ、時にはいくぶん水分を飽和させるくらいにして熱を利かせるのであります。
このようにすると品物の乾きすぎる部分はこの水分で和らげられ、なお湿った部分は乾いて各部分が平均に徐々に乾燥加熱されて満足に焼き上がります。
窯は特別に素焼の目的のために築く必要はありませんが、連続的に素焼をすることは工程上便利ですし、また素焼用の窯は焼成火度が低いために築窯材料は特に良質のものを要しませんので、おおむね素焼専用に適した窯を築きます。
現在大工場の大きな窯においては本焼の余熱を利用し、または煙道の途中に素焼室をつくって余熱を利用します。
素地の性質によっては素焼の温度の正確さは相当に留意すべきもので、適度を得られない時はあとの工程に種々の害を及ぼすことがあります。
例えば素焼が弱すぎると釉の付着が悪くなります。
また素地によってはわずかの温度の差で収縮がはなはだしく相違するものがあります。
このような素地においては最後の焼き上げの火度のわずかな差で所要の寸法を得られず、窯内の火度が不均一になれば品物は著しく不揃いのものとなります。
なお素地の原料の性質により素焼を必要としないものがあります。
中国景徳鎮の磁器や、またわが国の会津焼また美濃焼の一部などがこれであります。

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