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鶴田 純久の章 お話

窯業に用いる鉛化合物中稀薄酸液に溶ける酸化物・炭酸塩などは激烈な毒で、その作用は累積的であるため近代文明国では鉛毒取り締まりの法令があります。
わが国では1900年(明治三三)12月17日に、内務省令第五〇号をもって「欽食物用器具取締規則」を制定発布し、翌年4月1日から実施。
1906年(同三九)6月、1909年(同四二)12月の前後二度の小改正があっち第一条に「販売の用に供する飲食物、又は販売の用に供し若は営業上に使用する飲食器・割烹具其他の物品にして、衛生上危害を生ずる処あるものは、法令の定むる所に依り、行政庁に於て、其製造・採取・販売・授与若は使用を禁止し、又は其営業を禁止し、若は停止することを得。
前項の場合に於て、行政庁は物品の所有者若は所持者をして其物品を廃棄せしめ、又は行政庁に於て直接之れを廃棄し、其他必要の処分を為すことを得。
但し所有者若は所持者に於て、衛生上危害を生ずるの処なき方法に依り、之れを処置せむことを請ふ時は、之れを許可することを得」。
第四条に「営業者は磁廓又は釉薬を施したる飲食器具にして、之れに百分中酷酸四分を含む水を容れ、三十分時間煮沸するに、其の液中に砥素又は鉛を容出するものを製造することを得ず。
修繕に関して亦同じ。
違背したるものは、二十五円以下の罰金に処す」。
上絵具は低火度で素地の釉薬に熔着させるものですから、媒熔剤としては主に鉛を使用し、これを珪酸・翻酸などと共に熔融してブリットとし着色材に混ぜてつくったものであり、もし焼成が不完全で絵具が十分釉薬に熔融しない時は、熔け残った鉛分が時として酸に遭って溶出することがあります。
そして媒熔剤の分量は焼付温度の低いもの程多く入れるために、低火度の絵具は鉛の含有量か多くなり、かつまた低火度焼成品はほとんどか粗雑品であるため、ときどき熔融不十分の結果からこの問題に逢着します。
しかし鉛分を溶出するかどうかは熔融状態次第で、ただ鉛を含有するということやその含有量だけでは決め難く、分量の多少に関係なく、よく熔融して完全に釉薬に入ってガラス状になれば、酸に遭っても鉛分を溶出することはないようです。
要するに絵具の成分と共に素地釉薬の性質を吟味し、必要安全な焼成火度で焼成すればこの問題はないのであり、特に発色が至難である数種の低火度絵具でこの問題を引き起こしやすいのであるから、この点特に技術面での留意が必要で、器物の用途に応じてこのような絵具を避ける努力をすればよいです。
もちろん根本的に鉛を使用しなければ問題はないことで、そのために従来蒼鉛を代用したり、また種々研究されて無鉛絵具として製造されているものもあるにはありますが、呈色光沢に関して鉛を媒熔剤とするものに遠く及ばず、法令に触れないとはいえこのような不完全な色沢のものでは彩色の目的に添わず、結局使用不能となります。
そのため現在では上絵具としての鉛の使用は避け難いことでありますが、使用に当たっての技術上の注意により鉛分の溶出を十分防止できることはいうまでもないようです。
人体上に鉛毒を恐れるのはいうまでもありませんが、陶磁器絵具に混入されている鉛の量は、他の鉛を本体とする顔料や塗料に比べると遥かに微量で、彩画として器物の一部分に塗られる分量は少ないし、また不完全な焼付によって食物中の酸に溶出することがあったとしてもほとんど問題がないらしく、またこれらの微量の鉛分は食物の消化に際してただちに酸化鉛となって糞便中に排出されるという一説もあります。
しかも実際には、このように不十分な焼付によってなされた粉彩は、器物を数回洗えば模様がただちに剥落してしまい、したがって鉛毒の心配はないようです。

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