高さ:6.8cm
口径:18.7cm
高台外径:5.8cm
同高さ:0.7cm
油滴天目二種のうち、華北産の油滴の代表的な遺品で、しかも日本に伝世した、珍しい例です。
腰が締まり、口が端反りになった鉢形で低く大きめのしっかりした高台がついています。
作りはやや厚くがっしりとした気分があり、特に口部はむっくりとして丸みがあります。
腰以下を除き、漆黒の釉薬がたっぶりとかかっていて、その表面に細かい油滴が一面に現れています。
油滴は全面にわたってほぼ均質に、それぞれが一定の距離を保って発生しており、くっついたり間があいたりしたところがありません。ただし胴部内側に五ヵ所、大ぶりの油滴がほぽ円形に集まったところがあって、独特の意匠となっています。このいわば油滴の丸紋は、内側の五ヵ所に正しく配置され、しかもその部分の釉面が、盛り上がったようになっており、意識して作りだしたものであることがうかがわれます。このように、人工によって油滴を作ることは、華南の偶発的な油滴とは対照的な、華北油滴の特徴とされるところであつて、この茶碗はそうした点でまさに典型的な遺例といってよいです。
素地土はきめ細かく、堅く焼き締まっていますが、釉薬のかかっていない露胎部はいわゆる渋ぐすりでくまなく塗りつぶしてあり、もとの土の色合いはわかりません。これも華北天目にはしばしばみられるやり方です。渋ぐす力は紫かっ色を呈し、その一部は黒釉の上にかかっているから施釉してのちに鉄分の多い泥漿を塗りつけたのでしょう。
このような手法は、一般に建盞の灰黒色の露胎部を模倣したものと解されています。銀色の油滴が漆黒の釉面に無数に現れている趣はちょうど満天の星をみるようで、尽きない味わいがあります。しかも、内外数ヶ所、油滴の間に、青く光るほぼ円形の小さい恕紋が浮いており、いっそうの変化を添えています。これは油滴ほど光沢がなく、ぼんやりした形ですが、あるいは曜変に似た現象が、そこに生じているのではないかと思われます。
見込みや口縁部は、油滴の粒が、やや大ぶりになっています。また外側は、内側に比べて粒が小さいです。そうした変化も、いかにも自然なよさがあります。
製作地は華北のどこか、一説では山西省の太谷窯といわれますが、最近、河南省魯山段店窯で、油滴天目が発見されたとの報告もあります。製作の時期は、引き締まったその形から、やはり十三世紀前後とみられます。
九州の某大名の蔵に、長く伝わったもので、古い桐箱に納まり、その蓋表には「ゆてき」の墨書きがあります。また古い恥り紙もあり伝世品であることは疑う余地がありません。
(長谷部楽爾)