御所丸茶碗 銘 由章

鶴田 純久
鶴田 純久

高さ:8.2cm
口径:10.7~12.5cm
高台外径:8.0~8.2cm
同高さ:1.0cm

 世に藤屋御所丸と呼ばれるもので、年来秘庫深く蔵されて知る人少なかったのを、昭和初頭、山陽すじに数寄の名家として知られた福山藤井家の売り立てに、突如として登場し、画期的な高値で落札、一世を驚倒せしめて以来、まさに鴻池家伝来の古田高麗と覇を争うべき斯界の双璧として、世上に喧伝されるようになりました。
 御所丸は『見知紗』にも「御本手也、織部がた」恚明記されているように、いわゆる織部御本に当たるで、その形は朝鮮本来の高麗茶碗には絶えて類を見ない、全くの織部独創の意匠に出たものです。異風の沓形という意欲的な造形は、本場美濃の織部茶碗よりも、かえって朝鮮金海の御所丸において理想的に具現された観があり、御所丸こそは、実にまた織部茶碗として、最高の表現をかちえたなのといってよいです。
 御所丸とは、室町時代以来の日鮮交易における、公方御用船の伝統的な船名であったが織部の門人であった島津義弘が、朝鮮在陣のおり、師の切り形によって金海で焼かせて、御用船御所丸で秀吉に献上したことから、御所丸茶碗の名が起こったとの伝承は、おそらく事実にもとづくものでしょう。そののち、これに倣って、豆毛浦倭館の初期にも、また釜山窯時代にも、類品、ないし御本御所丸の類が焼かれたものと思われます。
 藤屋御所丸は、古田高麗と作ゆきの手癖がすこぶる酷似して、あるいは作人が同じではないかと思わせるふしがあります。こと目につくのは腰回りや高台削力の箆使いで、無造作なタッチの手癖がよく似でいます。御所丸の沓形は、大半手づくね気分を基調とするもごので、しかもこの種の手法には不慣れな、かの地の陶工のぎごちなさが、一種、素人作家的な斡力をさえ加えています。白地の御所丸において、魅力のポイントは腰以下にあるわけだがこの一見、素人臭い無骨な作ゆきが、実は魅力の源泉となっています。
 あとになるほど、ことに御本御所丸に至って、型を追った形式化が目だってきます。高台や腰箆を、本歌では切り形の大要を体して、無造作に削っただけで、かえってのびのぴと屈託のない箆使いのおもしろさが、生き生きと人の心に訴えるのですが、形式化した亜流の作では、型どおりの多角高台や綺麗ごとの亀甲箆でノもはや救いようのない無味の作と化しています。
 藤屋御所丸は、古田高麗に対して。一種破格の美にあふれ、織部好みのいわゆる「へウゲ」た趣は、かえってこの一碗においてまさるともいえましょう。姿は織部の切り形に出た玉縁、胴締め、腰張りで、総体厚作、ことに腰以下は、魁偉で堂々たる貫禄があります。金海堅手の特色だる赤みが、ことによく出て美しいです。胴には轆轤(ろくろ)目や細筋がよく立ち、腰回りの豪放なタッチの箆目が、大きな見どころとなっています。
 高台は土見で堂々としており、無造作な強い箆削りにでおのずから不整の九角になっています。高台内の削りもゝ淡々としてとらわれず魅力に富みます。箆目は織部好みの大きな特色で、御所丸において最もよく真面目を発揮しているといってよいです。釉だちは古堅手ふうで、粒膚には釉むらや艇れ、かけはずしなどがあり自然の景も豊かで見込みや腰回りの細かい紫しみが美しいです。
 近年、松永耳庵翁によって、所蔵者にちなみ、「ゆき」の追銘が贈られました。
(満岡忠成)

由章 ゆき

御所丸茶碗。
鴻池家・藤田家伝来の両御所丸白茶碗「古田高麗」(111頁上・下)と同手。
腰の張った丸い碗体を軽く押さえて沓形とし、細い糸目の較幄目が走る筒形の上部と、錠目の入った腰との対比や、白釉を基調にかすかな紅と青むらが現われるなど、見飽きません。
釉の薄いところでは地土の黒がのぞき、春の淡雪がはだれに土を覆った風情で、松永耳庵の命銘。
藤井某が所持したので「藤井御所丸」とも呼ばれました。
作風・釉調ともに両「古田高麗」と近似し、御所丸白茶碗の三傑です。
《付属物》箱-桐白木、書付松永耳庵筆
《寸法》高さ8.3~8.5 口径10.7~12.3 高台径7.3~7.9 同高さ1.0 重さ435

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