Suzu ware: jar with four seasons trees and plant design. Excavated at Jike, Suzu-shi, Ishikawa. 13th century. Height 28.2cm.
Ishikawa-ken History Museum.
石川県珠洲市寺家出土
13世紀
現存高28.2cm 現存頸径15.0cm 胴径26.7cm 底径8.5cm
石川県立歴史博物館
土木工事中に発見されたものといい、すでに口頸部は失われていましたが、頸部から下はよく完好な姿を留めています。まるく肩が張って小さい底部に向かってすぼむ中形の壺で、13世紀前半代の作です。
紐土巻き上げづくりで、器面は全面箟削り調整による擦痕がみられ、成形時の打圧による凹凸を残している。
器面の文様はまず、胴下半部に三条の櫛目波状文をめぐらし、その上に四分割手法によって四面に絵画文を施しています。一面の図は櫛状施文具を用いて縦に屈折する樹幹を置き、上部を右に曲げていさて、この樹幹から幅の狭い櫛を用いて左右にそれぞれ5~6本の枝を垂れ下がるように描いています。その枝の先に刺突手法によって左右に交互に分かれた葉を連ねていて、柳の木を描いたものと思われます。
その左の図様は柳と同様に幅の広い櫛を用いて樹幹を描き、それから細い線描きで櫛目文の両側をなぞらえるように樹幹の輪郭を描いていて、先端を左右に大きく撓めています。この樹幹から左右に分出する数本の枝はやはり大きく撓めていて、中間に楕円形の葉を、先端には刺突手法によって10個内外の花序を配します。この樹種についてはにわかに定め難いですが、先の柳との組み合わせで考えますと、と櫛との違いはあれ、国宝の渥美秋草文壺の図様と同様であって、桜とも考ええます。他の二面の図様はいずれも風になびく芒を描いたものです。そしてこの四面の草樹文の間を草文で埋めています。この刻画文は一般には秋草文として知られていますが、二面は春の風物を示しているのであって、四季を描くことを目的としたものであったと思われます。
以上のように考えますと、渥美と珠洲という遠く離れた地域において同様な構図をもつ絵が偶然に生まれたとは思われず、中央文化と深いかかわりをもっていた在地の貴族領主層が、当時流行していたやまと絵を陶器に写して貢納させたものとみることができます。