焼物とその分類

肥前陶滋史考
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鶴田 純久の章 お話

現代生活と陶器
 日常生活の中で、食事や茶道具を入れる器である「焼き物」について知っておく必要がある。現在、焼き物は家を建てるだけでなく、衣服やアクセサリーにも使われている。つまり、焼き物は私たちの生活と切っても切れない関係にあると言わざるを得ない。

焼き物の必須知識
 そのためかどうか、焼き物の鑑賞や使い方を研究する人が増え、床に置く装飾品から台所に置く日用品まで、趣味と実益を兼ねた知識欲がますます旺盛になっている。ますます複雑多様化する文化発展の時代にあって、政策立案者や果敢な教育者など、リーダーとなるべき者は、より幅広い分野の知識を培う必要がある。私は、海図もコンパスも持たずに大航海に乗り出した船乗りではない。
 陶芸家や共同販売者だけでなく、生産方法や製品に関する予備知識も必要であり、特に陶芸鑑賞に興味を持つ陶芸家にとっては必須である。したがって、このやきものの本質的な性格や歴史を知りたければ、まず全国で使われてきた肥前陶磁の歴史を学ばなければ、やきものを語る資格はない。
 本書は、焼き物とは何かを説明した上で、人類と焼き物の密接な関係、わが国の焼き物の歴史を述べ、さらに肥前の各山の歴史と焼き物の種類を解説したものである。土器本体とは、焼き物の本体である。

焼き物の本体
 焼き物の本体は珪酸塩の結晶体、つまり金属と珪酸塩が酸化した結晶体である。つまり、酸化金属とガラス質の共焼成の結果、色と可塑性を持った耐久性のある物体である。

陶器の名称
 陶器という名称は、古代の「末の土器(すえのうつわ)」(古代の土器は底が丸く、据えることができなかったが、後に轆轤(ろくろ)、糸切り、糸底、糸尻、ひね留などの形になった)に由来し、後に土器、石器、磁器などあらゆる陶器となった。 その後、土器、石器、磁器を問わず、すべての陶器を総じて陶器と呼ぶようになった。土器は須恵器よりも壊れやすく、埴輪(はにわ)、埴物(はにわもの)、埴のうつは物(はにわのうつはもの)と呼ばれる。(埴」とは赤土や土粘土のことである。)

瓷器その他
 いわゆる昔の「瓷器」は、青瓷(セラドン)のことで、「あほし」「秘色」とも呼ばれ、当時は大変貴重な焼物であった。もちろん、磁器に土が変わったのは後の時代である。炻器(せっき)は砂陶器の硬さに焼成される。磁器は、中国の宋の時代に河南省長徳府(現在の広東省、江蘇省)の磁器窯で生産された白磁にちなんで名付けられたと言われている。

陶器の種類
 現代では、陶器は土器、陶器、硬質陶器、石器、炻器の5つに分類される。土器と陶器は軟陶、炻器と磁器は硬陶に分類される。

硬質陶器と軟質陶器
 軟らかい原料を使っても、焼成技術や火加減によって硬い焼き物ができ、硬い原料でも上記の方法によって軟らかい焼き物ができる。したがって、結局は窯を母器とした製品によって区別するしかない。ただし、軟質陶器のどこまでが土器で、どこまでが石器なのか、一見しただけでは判断しにくいので、陶器と石器の中間のような焼き方をするものもある。
 軟質陶器と硬質陶器の区別は、粘土をこねて焼くか、石を砕いて焼くかではなく、焼成品が粘土状か石状か、吸水性があるかないか、無孔質かどうか。素材が粘土状か石状か、水を吸うか吸わないかの違いだけである。ただし、磁器だけは白い袖の透明度と底の固さで見分けることができる。

磁器の硬さと柔らかさ
 ストーンウェアと呼ばれる磁器にも、原料や焼成温度によって硬軟があり、さまざまな特徴がある。たとえば、天然磁石で焼かれた有田焼は、色合いは真っ白ではないが、硬さではこの種の磁器の頂点に立つ。同じ鉱石である天草で焼かれた磁器は、前のタイプよりも縁が出やすい。瀬戸や美濃の磁器は、原料の関係で非常に純白な色合いだが、ガラスのように柔らかく、二つに割れやすい。
 磁器は磁土、長石、珪石を原料とし、一旦700度から1000度の高温で素焼され、これに彩書及釉薬を施し、更に1250度から1300度以上に本焼をした。緻密で堅固な素地は水分を吸収せず、叩くと澄んだ金属音がする、陶器の最先端を行くものである。肥前の有田焼、三川内の波佐見焼、嬉野の嬉野焼、京都の清水焼、尾張の瀬戸焼などが代表的である、 美濃の多治見焼、加賀の九谷焼、岩代の会津焼、伊予の砥部焼、但馬の出石焼、摂津の三田焼、羽前の平清水焼。

炻器(せっき
 粘土と砂を混ぜて作られ、焼成温度は1,000~1,200度。磁器と同じように硬く緻密で、強く叩くと石のような音がし、水分を全く吸収しない。色は粘土に含まれる鉄分のため薄茶色や青みがかった青が多いが、素焼きの中には朱泥、白泥、梨地泥などもある。次のような土器がこれに属する: 尾張の常滑焼、伊勢の萬古焼、いわきの相馬焼、備前の伊部焼、伊賀の丸柱焼、筑前の高取焼、大隅の帖佐焼、肥後の屋代焼、石見の石見焼、常陸の笠間焼、下野の益子焼、美濃の温故知新など。

硬質陶器
 硬質陶器は、磁器、長石、石英などを原料とし、磁器とは逆の約1200度で焼成した後、約1000度で軟らかい釉薬をかけて焼成する。色は不透明な乳白色で、多孔質で吸水性がある。この製法が生まれたのは近代になってからで、名古屋の松村金物陶器合名会社、名古屋の三ツ敷製陶株式会社、名古屋の日本陶器株式会社、加賀市の加賀製陶所などがそのメーカーである、 加賀の加賀製陶所、金沢の日本金物陶器株式会社(本社は釜山)、小倉の豊陶器株式会社、四日市の山商石油株式会社、有田の帝国興業株式会社がある。有田の帝国興業海社など。

半磁器
 陶磁器にはもうひとつ、半磁器と呼ばれるものがある。粘土を主成分とし、透光性を防ぐために少量の長石を加えたもので、彼の大正萬古のように濃い色のものが多い。この種の陶器は一般に貿易用に作られたが、その主な理由は輸送のために軽量であることと、不透明であることで地方の関税を軽減することを目的としていたからである。

陶器
 陶器は磁器に比べて粘土が多く長石が少ない。焼成温度は900度前後から1200度にもなる。粘土の色は濃色または白色で、吸湿性がある。古くは肥前の唐津焼、近江の信楽焼、京都の粟田焼、豊前の上野焼、薩摩の名代川焼、長門の萩焼、大和の赤膚焼、出雲の伏波焼、淡路の民平焼などがあり、マジョリカ(石英)や一般的なタイルもある。

土器
 土器は人類が誕生して以来、単純に生産されてきた焼き物の一種で、焼き物の中では最も貧弱な部類に入るが、科学的には区別されており、目利きが骨董品として珍重する茶器には驚くほどの高値がつくことは言うまでもない。
 土器は粘土だけを焼成したもので、もろく、多孔質で、粗く、叩くと粘土音がし、水分を多く吸収する。焼成温度は通常450度から700度(SET)で、釉薬(ゆうやく)をかける場合とかけない場合がある。古代の弥生土器、埴輪、京都の樂焼、武藏の今戸焼、加賀の大樋焼のほか、瓦、焙烙、携帯炉などがこれに属する。

原文

焼物と其分類

現代生活と焼物
 吾々が生活上の要件である衣食住の中に、毎日缺ぐ可からざる食事の容器であり、又茶器であるところの焼物に就いて、概念的にも之が知識を備ふることは頗る必要であり。そして今や住宅の建築用材より、衣服の装身具にま焼物の用さる時代となった。故に吾々の生活と焼物とはに不可分的の關係あるものさいはねばならぬ。

焼物知識の必須
 それかあらぬか、近來此焼物に於ける観賞と應用の研究者頓に増加し、或は床上の装飾物より臺所の日用品にまで、趣味と濟上よりの知識欲求が熾烈なるに至ったのである。殊に文化の發達に伴なひ益々複雑多岐に成りゆく現代に於いて、指導者たる可き爲政家や、敢育家の如きに至つては、より豊富なる廣況に亘つての知識涵養が必要なるはいふまでもなきに、管に其郷土の沿革史さへ知らずして漫然其職に携はる如きは、海図と羅針盤との準備なくして茫々たる太洋に乗出せし船員たるのあるを免れね。
 況んや本業たる焼物製作者及び共販資者は勿論の事として、又學生にも或程度の製法や、商品學しての予備知識を要するがあり、就中該品の鑑賞に趣味を有する好陶家に於いては、全然必須の事柄であらねばならぬ。而して此焼物の要点たる性格 其沿革を識らんと欲すれば、先づ製法を全國に傅へし肥前の陶磁史を識るにあらざれば、未だ以て焼物を語る資格なき者と断せざるを得ぬ。
 本書は焼物の何物なるかを説き、而して人類と焼物の密接なる關係より我國の陶史に及ぼし、次に肥前各山の沿革と其焼物の種類を記述せるものにして、此書を繙きて始めて斯業の根元地たる肥前と、全國各製陶地との關係をも識るに至る可く、故に肥前陶磁史考と稱するも、質は我邦陶磁史の中樞を成すものといふ可きである。

焼物の本体
 焼物の本体なるものは、何であるかと言へば、それは珪酸塩の熟化されたる結晶物体である。尚換言すれば酸化金属と、硝子質の共同焼成の結果、さらに色彩と可塑性とを具へたこの耐久性物体であると科學者は説明してゐる、が、かゝる化學的解釋は専門の範圍に属するを以て、此處には既に焼成されたる物体の來歴と其性格とにつき重に記述するものである。

陶器の名稱
 抑陶器といへる名稱は、古への須惠母乃、スヱノウツハモノにて、もと据ゑる物(古代の土器は下部丸くして据らぬ物なりしが、後に高臺「臺輪、糸切、糸底、糸尻、ひねりどめ」なる物を形造りて、据ゑる器となせし物であらう)の意義より起りし由なるが、後には土器にも、炻器にも、磁器にも、すべての焼物を總括的に皆陶器とせられてゐる。土器とは須惠母乃よりも脆き、土師器にて、之をハジモノ、ハニモノハジノウツハモノと稱するは、即ち土師の造る物或は埴輪物又は埴瓮(クレーフイガ)等の略稱であらう。(埴とは赤土又ねば土のことである)

瓷器其他
 古への瓷器所謂シノウツハモノとは青瓷(セラドン)のことにて、即ちアホシ又秘色と稱せられ物にあたり、當時頗る貴重せし焼物なるも、天平瓷器は未た軟陶に属し、弘仁瓷器に至つて始めて硬胸に類す稱せらる。蓋し胎質が磁器に改まりしは勿論後代のことであらう。炻器とは砂陶の硬度に焼成されし物であり。磁器とは支那の宋代に於て、河南省彰德府(今の直隸省廣東府)の磁州窯に製せられし白磁より名つけられしといはれてゐる。

焼物の種類
 現代にては焼物の種類を土器(アーセンウエア)陶器(フハイヤンス又はポッタリー)硬質陶器(アイアン・ストーン・チャイナ又はハードポッタリー)炻器(ストーン・ウェア)磁器(ボースレイン)の五種に區別されてゐるが或は又土器や陶器類を軟陶に、炻器や磁器を硬陶に大別することもある。

焼物の硬軟
 而して軟質の原料にて製作されたとしても、焚き方の技法と其焼成火度に因つては硬質の焼物と成るのがあり、又硬質の原料とても前記の方法次第にては軟質の焼物が出來るのである。故に結局は窯を母胎としての成品に依て區別する外はない。蓋し軟陶とするも、幾程度の焼成物が土器であり、そして又どこ迄の焼成物が陶器であるか、一見しては定め難きものがあり、斯くて陶器と炻器との中間程度に焼成されたのがある。
 要するに軟陶と硬陶との區別は、それが本来土を捏ねて焼きしか、石を砕いて焼きしかの原料上の問題でなく、燒上た物の性質が土の様であるか或は石の如くであるか、そして―水分吸収の有無―水分を吸収せぬ無氣孔質か、否かとの區別に依る外はない。蓋し磁器だけは白袖の透明質と素地の堅牢さを一見して、誰人にてもそれと判別し得るのである。

磁器の硬軟
 尚石焼と稱する磁器の中にても、原料や焼成火度に依っての硬軟があり、又種々の特質がある。倒せば天然磁石にて焼成されし有田焼は、色相純白ならざるも硬度に於ては此種の冠たる可く。而して同じ礦質にても天草の原料にて焼成されし磁器は、前器と比較して縁邊缼を生じ易く。又瀬戸や美濃の磁器に至つては調合原料の關係にて色相頗る純白なるも、硝子の如く眞二つに壌はれ易い丈軟質である。
 扨此種の焼物を原料と燒成火度に依って區別すれば、―磁器―磁器とは磁土、長石、珪石(石英)の主成分を以て形成された物を、一旦攝氏七・八百度より一千度位迄に素焼して、之に彩書及釉薬を施し、更に千二百五十度より千三百度以上に本焼せし珪酸質焼物にて、緻密堅牢なる素地は敢て水分を吸収することなく、打ては金属の如き清音を発する物、之が焼物中にて一番進歩せる製品である。其代表産地が肥前の有田焼及同三河内燒同波佐見焼、同嬉野焼をはじめ、京都の清水焼、尾張の瀬戸焼、美濃の多治見焼、加賀の九谷焼、岩代の會津焼、伊豫の砥部焼、但馬の出石焼、攝津の三田焼、羽前の平清水焼等である。

炻器
 炻器とは多く粘土に砂を混じて製作せし物にて、焼成火度は攝氏千度乃至千二百度である。而して磁器と同様堅なる密器性にて量重く打てば石音を發し全く水分を吸収せぬ。色相は粘土の鐵分のため多く淡褐色や黝青色を帯びてゐるも、無釉物には朱泥、白泥、梨皮泥等がある。此種に属する物は尾張の常滑焼、伊勢の萬古焼、磐城の相馬焼、備前の伊部焼、伊賀の丸柱焼、筑前の高取焼、大隅の帖佐焼、肥後の八代焼、石見の石見焼、常陸の笠間焼、下野の益子焼 美濃の温故燒等の諸山がある。

硬質陶器
 硬質陶器とは磁土、長石、石英を應分に使用せしものにて、焼成方法は磁器と反對に素焼の火度を千二百度位の高度に焼き、之に軟釉を施して千度位にて本燒せし物である。色は不透明乳白色なるが、氣孔質なる吸水性である。此製法は近代の創造にて製作所は名古屋の松村硬質陶器合名會社、同地の三引製陶會社、同地日本陶器株式會社、加賀の株式會社加賀製陶所、同金澤の日本硬質陶器株式會社(釜山の日本硬質陶器株式會社を本社とす)小倉の東洋陶器株式會社、四日市の山庄製陶所、有田の帝國窯業會社等である。

半磁器
 陶器の種類にて近來又半磁器と稱する珪酸質燒物がある。それは長石分少なく粘土を主成分として透明を防ぎ、多く暗色を用ひられてゐる彼大正萬古などである。此種は概ね貿易品とし輸送の關係上軽量を主眼とし、且不透明なるは陶器として彼地の關税を少なうすべく目論まれし製品らしく、重なる製造地は京都、尾張、美濃及伊勢の四日市等である。

陶器
 陶器は磁器に比して粘土分多く長石分少なく、打てば木音を發する粗質である。焼成火度は攝氏九百度内外より千二百度に達する物がある。胎土は暗色と白色とに数種があり、何れも水分を吸収する。古きは肥前の唐津焼より近江の信楽焼京都の粟田焼、豊前の上野焼、薩摩の苗代川焼、長門の萩焼、大和の赤膚焼、出雲の布志名焼、淡路の珉平焼等産地甚だ多い或は又 マジョリカ(石英質)及普通タイルの如きも此種類に属するものである。

土器
 土器は遠く人類の元始時代より簡單に造られし器にて、焼物中にては一番劣等の部類に属するも、それは科學上より見たる區別にて、若し好事家の骨董的に賞翫する茶器などに至つては、驚く可き高價なる物あることは申すまでもない。
 土器は粘土のみにて焼成されし物なるがゆえに脆弱にして氣孔ある粗質にて、打てば土音を發し且夥しく水分を吸収する。焼成火度は通常攝氏四五百度乃至七百度位といはれ、そして之に施釉せ物とらざる物とがある。古代の彌生式土器や埴輪、埴瓮など此部類にて、京都の樂焼、武藏の今戸焼、加賀の大樋焼、或は瓦、焙烙、焜爐等皆此種類に属するところの物である。

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