十六世紀。
蘇芳地に葡萄模様を一面に金摺箔で置き、ところどころに色紙形を散らし、色紙の地模様を描き添えている。
葡萄の木は裾から二本が蔦のようにからみ合って上にのび、肩から袖にひろがり、豊かに実を付けている。
金摺箔だけで模様を置いた能の小方用の衣装で、その地色に葡萄のもつイメージが、ワインカラーで表象されているようである。
葡萄模様は明代末期、中国で盛んに意匠として用いられ、やがてわが国にも伝わり、桃山時代にその盛行をみたのである。
摺箔の裂は表具に利用され、光悦・光琳などの絵や書に広く用いられている。
摺箔のもつ優美な感覚は、宗達系画家の装飾主義的表現と相通じるものがある。
【所蔵】東京国立博物館