重文、大名物。土は黒褐色の建窯独特のもので、高台が比較的大きく、全体にやや開き加減の作です。
釉はたっぷりとかかり、裾の釉なだれ厚く、三葉形に土をみせ、一部は釉なだれが高台の裾にまで及び、あとで擦っています。
青黒い深みのある釉面に、銀茶色の油滴がまんべんなく浮かび上がり、非常に美しいです。
油滴の形はほぼ円形に近く、最も好ましい状態で火が止まったことがわかります。
建窯の天目はたいてい口縁に覆輪がかかるものですが、この天目には添っていません。
曜変の現象は、焼成中を通じて含まれている還元性のガスまたは釉薬中の揮発分が、熔融した釉を通じて逃げる際冷放されますと、その部分に溜まった釉が気泡の大きさに丸く凝縮し、同時に結晶状となります。
それゆえ油滴のように密集することを本質としていますが、ときとして異状に変形したり、飛び飛びに斑文を現わすこともあります。
この天目には利休在判の尼崎台が付いており、内箱表に利休が「ゆてき天目」と箱書をしています。
織部に頼まれてしたのかわかりませんが、この種の天目類で利休の箱というのはほとんどなく、それだけに珍重されます。
《付属物》内箱-桐白木、書付千利休筆 外箱-桐白木、書付松平不昧筆 被覆-白地小牡丹古金欄 同箱-桐白木、書付同筆 天目台-尼崎台、千利休在判
《伝来》古田織部-土井大炊頭利勝-木下和泉守長保-松平不昧-雲州松平家
《寸法》高さ6.5~7.0 口径12.4 高台径4.0 同高さ0.7 重さ272