Picture of 鶴田 純久の章 お話
鶴田 純久の章 お話

高さ:7.8~8.5cm
口径:11.2~13.5cm
高台外径:5.3~5.9cm
同高さ:0.5cm
 この朝日影茶碗もまた、卯花墻をはじめ朝萩・広沢・羽衣・住吉・山端・峰紅葉など幾多古志野の名品を生んだ桃山の美濃大萱窯の産とみられるもので、これまでほとんど世に紹介されることがありませんでしたが、その作ゆきにおいて、釉膚のあがりにおいて、火色において、鋳び絵において、既知の作にまざるとも劣らぬご容易に雌雄を決しがたい至極の上作で志野愛好の数寄者をして必ずや十分堪能させてやまないものです。
 朝日影の銘は、鋳び絵の山水を神路山に見立て、その中に国旗ふうの日の丸のあるのにちなんで、『新千載和歌集』慶賀部、常磐井入道前太政大臣の歌、「千早ふる神路の山の朝日かげ猶君が代にくもり為らせないでください」から採った歌銘であるが、神路山の連峰をしのばす遠山の山並みは、みごとな火色の景と相まって、いかにも元旦早暁のすがすがしい伊勢の神域に初11の出を拝する心さえ感じられて、神々しくも、かつ国ぶりの茶趣のひとしお深まるのをおぼえます。
 白いもぐさ土に釉調やわらかな長石釉たっぶりとかかり、胴を回って、鋳び絵とりどりに、自在の筆触で、みごとに描かれていますが、総体に裾張り、かつ口辺で締まった作風の、この特色は、ときに大萱の他の古志野にも類品を見いだすことができます。
 口づくりはやや小判なりで、全体の形も長まるめですが、成形の箆削りすこぶる奔放で、胴に、脇削りに、箆のタッチは魅力ある作ゆきを生んでいます。
 外面を回って描かれ尨鋳び絵は、古志野特有の太絵で無造作に、遠山あり、老松あり、楼閣あり、ぼの丸の旗(亀甲紋)ありで、モチーフの変転につれて茶趣いよいよ尽きず、これにたっぶりかかった志野釉は釉調やわらかく、厚薄不同によって鋳び絵の発色も濃淡さまざまで、ときに釉だまりやなだれ、ないし指あど、火間の景も加わって、興はいよいよ深まります。しかも特筆すべきは、古志野独特の魅力たる冴えた火色が、あるいは口縁に、あるいは鋳ぴ絵のうちに、あるいは釉ぎわに、所在に発して、人をして心ゆくまで堪能させることです。
 見込みは懐深く、またひろびろとして、中には目が三つあります。高台は光悦ばりの付け高台で、十の字の窯じるしが彫られています。削りの不律な腰の辺に無造作に釉ぎわができているのも、無作の作として興趣尽きぬものがあります。口縁に一ヵ所漆つくろいがみられます。
 内箱は黒塗り、蓋表貼り紙の筆者は不詳。同蓋裏に「千早ふる神路の山の朝日かげ猶君が代にくもりあらさないでください」の貼り紙がありますが、この筆者は藪内竹翠です。
 くわしい伝来は不明なるも、多くの志野名碗と同様に浪花の名家に伝わった由緒あるもので、現在はその銘にゆかりのある阪神地方の数寄者の手に所蔵されています。
(満岡忠成)

志野 銘朝日影

付属物 箱 黒塗同蓋裏 色紙藪内竹翠筆
寸法
高さ:7.8―8.7cm 口径:11.1―13.3cm 胴径:12.2L13.3cm 高台径:6.0cm 同高さ:0.5cm 重さ:540g

 この茶碗で、茶を飲んだことはありませんが、何回となくこれを手にする機会にはめぐまれました。これもすばらしいです。豪快で手触りがよく、力感をあたえます。
 裾が長方形にゆがめられていますが、苦にはならないどころが、それがかえって面白いです。釉肌の白溶と鉄絵具のこころよい緋色が、えもいわれぬ魅力をあたえます。美しい茶碗ですが、女性的なものは感じさせず、むしろ男性的な感じがします。
 鋳絵の山水模様を「神路山」に見立てて、「朝日影」というめでたい神さびた銘をつけたところが面白いです。
  千早ふる神路の山の朝日かげ 猶君が代にくもりあらすなと
歌銘がある。
 はたして作者自身が、山水模様を意図して描いたかどうかはわかりません。
 この茶碗の特色は、腰張りで、かかえ込みがあって、茶をゆたかにして、味をよくする点にある。

志野 茶碗 銘 朝日影

Shino tea bowl. known as ‘Asahikage’
Diameter 13.4cm KSsetsu Art Museum
高さ8.8cm 口径13.4cm 高台径5.8cm
 香雪美術館
 「羽衣」と似た作行きでありますが、より奔放であります。口を楕円に、腰回りを撫四方に作り、腰張り、胴締め、端反りぎみの作振りであります。
 広い底に無造作に輪高台がつけられ、ざんぐりとした土膚は時代のさびが加わって味わい深い。また、その土膚に数か所釉が飛んでいますのも、一景をなしています。胴には奔放な筆行きで遠山、松、柳、楼閣、亀甲文のような絵がめぐらされ、火色も鮮やかに出て抜群の景をなしています。腰の釉膚に焼成時に匣に付着した跡が残り、高台脇に十字の窯印が箟彫りされています。広々とした見込に小さな目跡が三つ残る。大萱牟田洞窯の製とされています。
 「朝日影」の銘は、蓋裏に貼紙された藪内竹翠筆の「千早ふる神路の山の朝日かけ猶君か代にくもりあらすな」の古歌の意によったものであります。

朝日影 あさひかげ

志野茶碗。名物。豪快で手触りがよく、力感あふれる茶碗であります。
裾が長方形にゆがめられていますが、その異形がかえって面白いです。釉肌の白さと鉄絵具の緋色が魅力に富み、美麗な茶碗でありますが、女性的なものは感じさせないようです。
誘絵の山水文様を神路山に見立て、『新千載集』の「千早ふる神路の山の朝日かげ猶君が代にくもりあらすな」の古歌に因んでいます。
この茶碗の特色は腰張りで、抱え込みの大きさが、茶情を一層豊かなものにしています。
《付属物》箱-黒塗、蓋裏色紙書付藪内竹翠筆《寸法》高さ7.8~8.7 口径12.2~13.3 胴径12.2~13.3 高台径6.0 同高さ0.5 重さ540

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