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鶴田 純久の章 お話

大名物
高さ:9.1~9.8mm
口径:15.5~15.7mm
高台外径:5.7mm
同高さ:1.8mm

 細川三斎が所持していたという伝えから、名があります。おそらく大井戸のなかでも最も大振りのもので、『雲州侯御虫干控』にも「喜左衛門より少々取りひろげて居るなり」とあるように、その碗形りの形姿はあまりにもたっぶりとして、筒井筒や喜左衛門にみられるような締まりにいささか乏しく、ために力強さにおいて欠けるうらみがあります。釉肌も薄く、したがって貫入も筒井筒、喜左衛門に比して細かいですが、ほんのりと赤味をおびた、白味がちの枇杷色釉の明るい美しさは抜群で、梅花皮(かいらぎ)釉も、高台ぎわの削りあとから高台にかけてみごとです。やはり、細川を含めた三碗は、三種三態、大井戸を代表する名碗であることを思わせます。
 『名物茶碗集』に「細川井戸 奥州公」としるされ、またこれを不昧公に取り次いだ江戸の道具商伏見屋の覚え書きに、「三斎公御所持、後冬木喜平治所持、安永の頃私方より御取次にて奉差上候」とありますから、一二斎所持ののち、仙台の伊達家、江戸深川の冬木家と伝来して、不昧のもとに入ったと推測されますが、この茶碗の声価がじっさいに高まったのは、それ以後、つまり本多、加賀とともに天下の三碗と称されてからでしょう。不昧蔵になったのは安永七年と伝えますから、彼の収集のなかでは、比較的早く、『大崎様御道具代御手控』には、伏見屋甚兵衛より三百両で購い求めたとあります。また『松平不昧伝』には、文化八年家督を譲るにあたって、
大名物之部
一、北野黒 一、本多井戸 一、細川井戸 一、玳玻盞 一、油滴 一、加賀井戸 一、粉吹  一、割高台
右者天下名物也永々可被大切者也
文化八辛未九月
不昧
出羽守殿

とあります。これによると、不昧は三井戸の位を本多、細川、加賀としていたことは明らかですが、今日的な評価においても、その順位は妥当なものでしょう。
 加賀井戸が不昧蔵になったのは享和年間のことでしたから、細川入手からおよそ二十年ぽどたっていますが、本多井戸の入手年代は、たぶん細川と同じ安永ごろでしょう。としますと、不昧はこの細川のいかなる点に共感をいだいたのでしょうか。おそらく、そのゆったりとした碗形りの形姿と、ほのかに赤味をおびた、井戸としては類例のない優美な釉色に、春風馳蕩とした味わいを感じたのではありますまいか。文化十年独楽庵の茶会で、不昧はこの茶碗を早春の二月中旬すぎに使用していますが、そうした茶碗の風格を十分に考慮」てのことであったと考えられます。
付属物の袋は、赤地に白い飛文のある広東ふうの裂、裏地は石畳文様の海気です。内箱は黒塗り、丸竜文の錦織袋に包まれています。
(林屋晴三)

細川井戸 ほそかわいど

細川井戸
細川井戸

大名物。朝鮮茶碗、名物手井戸。
威風堂々として規模の雄大な大茶碗であります。
もと細川三斎所持、仙台藩主伊達家、江戸冬木喜平次を経て1778年(安永七)松平不昧が購求するところとなりました。
当時価三百両、以来雲州家に相伝しました。
(『古今名物類聚』『銘物集』『大正名器鑑』)

名物手
大名物
付属物 外箱 桐白木 書付 貼紙
伝来 細川三斎―仙台伊達家―江戸冬木家―松平不昧―世子月潭公
所載
古今名物類聚 名物茶碗集 本屋了雲著苦心録 伏見屋覚書 伏見屋甚兵衛 大崎様御道具代御手控 松平不昧伝 不昧公名物茶会記 東都茶会記第三輯上 大正名器鑑
寸法
高さ:9.1~9.6cm 口径:15.9cm 高台径:5.7cm 同高さ:1.9cm 重さ:440g

 もと細川三斎が所持したので細川井戸とよばれ、天下の名器として早くから知られています。のち伊達家・冬木家を経て松平不味公の有に帰し、愛蔵ことのほかだったといいます。さきの喜左衛門や筒井筒が、武ばった豪快な作であったのにくらぺ、この井戸はおだやかなやおらかい作風を示し、いかにも不昧公好みのものといえましょう。
 速いたくみな轆轤で椀なりがととのえられ、轆轤目は余りきわだちません。高台脇から高台へかけてあとから削り出すのは例のごとくですが、これも丁寧にされたとみえて、削りが一様によくととのっています。ここに溜った白釉は、約束どおり かいらぎをなしていますが、激しく結粒するというのではなく、釉面が蛇蝸状に干割れる程度でおさまっています。下地の削りがそれほど荒くなかったからです。そして井戸としては珍しく土と釉がよくなじんだとみえ、上部や見込みの釉面の貫入が微細で、漆みも少なく、こういうやおらかな肌合いが得られたのです。

細川井戸 ほそかわいど

井戸茶碗。
重文、大名物。名物手。
速い巧みな轆轤で椀形が整えられ、轆轤琥目はあまり際だたない。
高台脇から高台にかけての削りもていねいで。
一様によく整い、ここに溜った白釉はかいらぎをなし、下地の削りがそれほど荒くないところから、激しく結粒するというのではなく、釉面が蛇蝎状に干割れる程度におさまっている。
白茶地に薄青い釉なだれがあり、井戸としては珍しく土と釉とがよく馴染んだとみえ、上部や見込の釉面の貫大は微細で、しみも少なく、柔らかい肌合いである。
内部は白釉がべっとりと厚くかかり、茶溜りがなく、見込中央は少し尖状をなしている。
その気品の高さは絶品というべきもので、形・寸法・轆轤・かいらぎ・高台など、すべての条件を完備した名碗である。
もと細川三斎が所持したので「細川井戸」と呼ばれ、のちに松平不昧の有に帰したが、その愛蔵振りはことのほかであったという。
「喜左衛門井戸」や「筒井筒」が武ばった豪快な作であるのに比べ、この井戸茶碗はおだやかな柔らかい作風を示し、いかにも不昧好みのものといえる。
「加賀井戸」「喜左衛門井戸」とともに天下の三井戸と称される。
【付属物】外箱-桐白木、貼紙書付
【伝来】細川三斎-仙台伊達家-冬木小平次I松平不昧-松平月潭
【寸法】高さ9.1~9.6 口径15.9 高台径5.7 同高さ1.9 重さ440
【所蔵】畠山記念館

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