青井戸茶碗 銘 山の井

鶴田 純久
鶴田 純久

名物
高さ:6.1~6.5cm
口径:13.2~13.8cm
高台外径:4.5~4.7cm
同高さ:1.1~1.3cm

 金沢には青井戸の名碗といわれるものが三碗あります。すなわち宝樹庵、藤田家伝来の雲井、さらにこの山の井ですが、宝樹庵の重厚な作ゆき、雲井の端正なたたずまい、山の井の引き締まった姿のよさなど、それぞれの趣のうちに、よく青井戸の特色を具備し、なおいずれも味わい深い名碗ぞろいで、加賀の数寄者が誇るのも当然のことといえます。
 ところで宝樹庵と雲井は『大正名器鑑』にも所載され、広く紹介されていましたが、この山の井は、長次郎の赤楽茶碗二郎坊とともにほとんど世に出ることなく、明治前期以来同地の名家村彦兵衛家に深ぐ蔵されていました。
 内箱蓋表に金粉字形で「山乃井」の銘があらわされていますが、筆者は明らかでありません。中箱蓋表には不昧風の筆体で、「井戸 青 山之井」とありますが、その筆者は谷松屋弥七すなわち戸田露吟の筆であり、なお蓋裏の極書によると、二十四歳のとき六地蔵を求め、慶応三年六十五歳のときに山の井を求めたと伝えています。露吟の『後学集』によると、
茶碗の内記も、青井戸ばかりは、能き茶碗を数見ずては、極意の所合点行きかぬゐものなり、予は六地蔵 山ノ井を求めます。
とあり、また山の井にづいては、
青にて小服、惣体は申分なし、当世第一等也、吾所持の後加州村彦氏所持、もと井坂六郎右衛門所持、同人より吾求めます。
としるしています。
 これによると露吟は、むしろ六地蔵よりもこの山の井を高く評価していたようであり、六地蔵は求めた翌年の慶応三年に金沢の福久屋瓢斎に取次いでいますが、山の井はしばらく所持していたのではないでしょうか。『後学集』にすでに村彦の名がでていますので、明治二十年前後には、同家に入ったものと推測されます。
 山の井の銘は、内箱蓋裏に貼られた小色紙の、「あさくともよしやまた汲む人もなし我に事たる山の井の水」という沢庵宗彭の歌によったものと思われ、またこの歌は、不昧所持であった大名物、古瀬戸茶入山の井の歌銘にも使われていますが、茶碗の小振りでしかも静かな姿に、独楽の境を現わした沢庵の歌意に通じるものを、汲みとったのでしょう。
 たしかに、山の井は青井戸のなかでは宝樹庵にも劣らぬ味わ賢深い茶碗です。ことに側面の形姿は、青井戸としては珍しく変化のある曲線をもっていて、腰で一段深く轆轤(ろくろ)がめぐり、そして口縁にいたって、やや端ぞりになるろくみ運びの間のよさは、特にすぐれています。
 厚味は宝樹庵と似ていささか厚手のように感じますが、それは施釉がかなり厚いためで、総体に。青味の強い釉がかかり、一部に白い釉なだれが景をなしています。高台ぎわから高台内にかけての梅花皮(かいらぎ)も細かく荒く変化をみせ、特に、一部に大きく玉をなした部分の景は抜群で、宝樹庵と同じく外側から高台にかけて釉調はとりわけすぐれています。
 内部は外部とまた趣を異にして、渋く静かな趣をただよわせ、見込みに目あとが四つ残っています。そしてさらに、井戸としては珍しく無きずであることも、露吟が高く評価したところと考えられます。
(林屋晴三)

山の井 やまのい

青井戸茶碗。
名物。腰で一段折れ込んだ屈曲の強い椀形で、肉厚く、力強いです。
幅は狭いが高台脇の削り込み鋭く、竹の節高台もいかつく変化の多い茶碗です。
釉は赤みをまじえ、腰のあたりから次第に濃くなり高台脇でかいらぎとなります。
かいらぎというより、釉の滴りの集まりといった方がふさわしいです。
見込の底から轆轤目際だち、渦巻状の茶溜りをつくっている。
銘は戸田露吟の筆で「山の井」の銘書があります。
「升屋」「竹屋」と並ぶ青井戸の名碗。
《付属物》内箱-桐白木、書付戸田露吟筆 外箱-書付同筆《伝来》戸田露吟-金沢村彦家
《寸法》高さ6.7 口径13.0~13.7 高台径4.6 同高さ1.0 重さ260

山の井井戸 青井戸

名物
付属物 内箱 桐白木 書付 戸田露吟筆 外箱 書付戸田式玄庵(露吟)筆
伝来 戸田露吟―加賀村彦家
寸法
高さ:6.3~6.7cm 口径:13.0~13.7cm 高台径:4.6cm 同高さ:1.0cm 重さ:260g

 大阪の谷松屋、戸田露吟の愛蔵にかかる茶碗で、のち加賀の村彦家の蔵となりました。升屋や竹屋とならぶ青井戸の名碗ですが、茶器は茶事以外に見せるものではありませんと、村彦家の先代が拒んだため、「大正名器鑑」には収録されませんでした。
 腰で一段折れこんだ屈曲の強い椀なりで、肉も厚く力強い作です。幅は狭いけれど高台脇の削りこみも鋭く、竹の節高台の造りもいかつく。変化の多い豪快な茶碗といえましょう。
釉はところどころに赤みをまじえた青井戸一流のそれで、腰のあたりから次第に濃くなって、高台脇でかいらぎとなります。しかし、ここではふつうのかいらぎというより。釉の滴の集りといった方がふさわしいです。殊に正面の竹の節へんに溜まった釉は、あたかも荷葉の露のように、白玉の輝きを見せます。見込みの底近くから轆轤目がきわだって、渦巻き状の茶溜りとなっています。

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