明代。
中国明末清初頃の赤絵や染付磁器に現われる、蓮花と水禽を刺繍に置き換えた趣の意匠であり、万暦期の煩雑な装飾過多の表現に比べると、空間を整理して広くとった簡素な表現は、すでに清朝様式を踏まえているといえる。
刺繍の技法もまた、日本の伝統的な平繡とは異なり、色糸の漸層と相まって、マッシブな感覚を表出している。
これは刺繍技法の感覚的相違ばかりとはいえず、むしろ民族的様式の違いを感じさせる。
沈静で落ち着いた趣のある優美な裂で、表具の中廻しに使用された残欠であり、全体の様子が判明しないのは残念である。
地は絽を用いた繡であり、古筆切・歌仙切などにふさわしい表具裂といえる。