伝小野道風筆。
重文。
『古今集』巻三(抄出本)断簡。
白地の鳥の子紙の一面(二頁分)に『古今集』を書写した粘葉本冊子の一葉である。
上の句を右一頁に、下の句を左一頁に散らし書にしている。
右半分には夏の夜の短く、明けてしまったことに対する気ぜわしさが、左半分には昨晩の月はどこへ隠れてしまったのであろうかということばの裏に、夏の夜の名残とまだ明けやらぬ自分の心を、すなわち明確な断定と憧憬的な曖昧を対称させている。
この歌意が左右の散らし書によって空間的に見事に表現されているといえる。
原初的な草の手の枯淡で静寂な書風は、他に類品を求めることができない。
道風自筆と認める説もあるが、それに近い遺品といえる。